孫子の兵法

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孫子の兵法-謀攻篇 戦わずして勝つ!

『孫子曰く、凡そ用兵の法は、国を全うするを上と為し、国を破るは之に次ぐ。』

「孫子は言う。基本的に、戦争においては、敵国を保全した状態で傷つけずに攻略するのが上策であり、敵国を撃ち破って勝つのは次善の策である。」

『軍を全うするを上と為し、軍を破るは之に次ぐ。旅を全うするを上と為し、旅を破るは之に次ぐ。卒を全うするを上と為し、卒を破るは之に次ぐ。伍を全うするを上と為し、伍を破るは之に次ぐ。』

「敵の軍団を無傷のままで降伏させるのが上策であり、敵軍を撃破するのは次善の策である。敵の旅団を無傷のまま手に入れるのが上策であり、旅団を壊滅させてしまうのは次善の策である。敵の大隊を無傷で降伏させるのが上策であり、大隊を打ち負かすのは次善の策である。敵の小隊を保全して降伏させるのが上策であり、小隊を打ち負かすのは次善の策である。」

『是の故に、百戦百勝は、善の善なる者に非るなり。戦わずして人の兵を屈するは、善の善なる者なり。』

「したがって、百回戦って、百回勝利を収めたとしても、それは最善の策とは言えない。実際に戦わずに、敵を屈服させるのが最善の策である。」

 百回戦って、百回とも勝利するというのは、普通に考えれば良さそうな話だが、孫子はそれを否定し、戦わずに勝つことを善の中の善だと説いた。戦わずして勝つ。これがなぜ最善なのか。自社にも損害がないからだ。戦って勝てば、敵よりも損害は少ないだろうが、無傷というわけには行くまい。戦えば、仮に勝ったとしても、自社にも必ず棄損がある。値引き合戦で勝っても利益が出ないと考えれば分かりやすいだろう。
 おまけに敵の経営資源も取り込んでしまえれば、一石二鳥。M&Aについては前項でも触れたのでここでは割愛する。

 だから、競合企業との局地戦(客先での奪い合い)に勝ったからと言って喜んでいるようでは将軍たりえない。それは現場の指揮官程度の話だ。将軍、経営者が考えるべきことは、競合のない市場を開拓し、または新しい市場を創り出すことによって、戦わずに勝つ戦略を練ることだ。
 そのためには、自社の事業ドメインを「物理的定義」から「機能的定義」に変えて、自社が何業か、何屋かという認識を変えてみると良い。
 ほとんどの企業は、自社の事業ドメインを物理的定義で認識している。たとえば、花を売っていたら花屋であり、靴を作っていれば靴製造業である。扱っている物理的な商材に着目しているわけだ。これでは同業者がたくさんいて、多くの敵と血みどろの戦いをしなければいけないことになる。
 これは、日本標準産業分類の影響である。あの分類で自社は何業かを考える思考の枠組みができてしまっている。そもそも役人が統計をとるための分類である。そんなものをベースに考えていて、戦略的な経営ができるわけがない。同じビジネスをやっている企業数が増えてきたから分類ができる。その積み重ねが日本標準産業分類である。過去を整理するためのものであって、未来を創るためのものではない。他人に説明するには相手も同じ思考をするから、分かりやすくて良いのだが、それによって毒されてはいけない。

 そこでドメインを機能的定義に変えてみる。機能的定義というのは、自社の商品なりサービスが顧客に対して実現している機能や効用に着目する事業ドメイン設定だ。これは切り口次第でいくらでも設定できる。たとえば、花という物理的商材を扱っていても、この花によって顧客の暮らしにうるおいを与えている「うるおい提供業」だと考えてみる。うるおいを提供するという機能に着目したわけだ。こう考えてみれば、別に商材は生花でなくてもいいことになる。暮らしにうるおいを与えるものを考えれば、絵画を売ってもいいだろう。花のある暮らしもいいが、絵のある暮らしもいい。うるおいなのだから、加湿器を売っても悪くない。私なら暮らしに音楽もあった方がうるおう気がする。そうであれば、音楽も商材として扱ってもいい。
 という風に、発想がどんどん拡がってくる。そうすると、花屋なのか画廊なのか、電器屋なのか分からないような会社になる。これが最高だ。分からないのがいい。何屋かすぐに分かるような商売では、同業者が多過ぎだ。他に例のない会社は、何屋か、何業かを説明するのが難しい。当たり前だ。

 ドメインの機能的定義は、独自の土俵を作り、そこで一人横綱になるものだと考えれば良いだろう。それができて、自社のビジネスに一つの切り口ができ、エッジが立てば、独自戦略となる。そうなれば、部分的に、競合していたりする企業はあるだろうが、会社全体でぶつかり合うようなガチンコ勝負はなくなる。

 こうしたことを、これからの人口減少、マーケット縮小時代には考えなければならない。戦えば、勝っても自社に棄損がある。ダメージがある。今後、必ず戦いは厳しくなるのだから、戦わないための準備をしておかなければならない。それが上策。
 孫子の兵法で、戦わずして勝とう!!

謀を伐ち、無理な戦いをしない

『上兵は謀を伐つ。其の次は交を伐つ。其の次は兵を伐つ。其の下は城を攻む。城を攻むるの法は已むを得ざるが為なり。』

「最上の戦い方は、敵の謀略、策謀を読んで無力化することであり、その次は、敵の同盟や友好関係を断ち切って孤立させることである。それができなければ、いよいよ敵と戦火を交えることになるが、その際に一番まずいのが敵の城を攻めることである。城攻めは、他に方策がない場合に仕方なく行う手段に過ぎない。」

『故に、善く兵を用うる者は、人の兵を屈するも、而も戦うに非るなり。人の城を抜くも、而も攻むるに非るなり。人の国を毀るも、而も久しきに非るなり。
必ず全きを以て天下に争う。故に、兵頓れずして、利全うす可し。此れ謀攻の法なり。 』

「それ故に、戦上手の戦い方は、敵軍を降伏させても、それは戦闘によってではなく、城を陥落させたとしても、城攻めによってではなく、敵国を滅ぼしたとしても、長期戦によってではない。
 必ず敵味方すべてを保全する形で天下に覇を競うことを考える。したがって軍の疲弊も少なく、戦利を完全なものにできるのだ。これが謀によって敵を攻略するやり方である。」

『故に、用兵の法は、十なれば則ち之を囲む。五なれば則ち之を攻む。倍すれば則ち之を分かつ。敵すれば則ち能く之と戦う。少なければ則ち能く之を逃る。若かざれば則ち能く之を避く。故に、小敵の堅なるは大敵の擒なり。』

「そうしたことから、軍隊を運用する時の原理原則として、自軍が敵の10倍の戦力であれば、敵を包囲すべきである。5倍の戦力であれば、敵軍を攻撃せよ。敵の2倍の戦力であれば、相手を分断すべきである。自軍と敵軍の兵力が互角であれば必死に戦うが、自軍の兵力の方が少なければ、退却する。敵の兵力にまったく及ばないようであれば、敵との衝突を回避しなければならない。
 だから、小兵力しかないのに、無理をして大兵力に戦闘をしかけるようなことをすれば、敵の餌食となるだけのこととなるのだ。 」

 最善の戦略は、競合の戦略を無力化するものであり、次は競合の提携先や販路を断つことであり、敵味方の戦力分析もせずに、無理な戦いをしようとしてはならない。
 機能的なドメイン設定で、競合のない市場を創り出すことができればそれが最善なのだが、その途上であったり、それができない場合には、競合との戦い方を考えていかなければならない。その際には、まず競合企業の戦略や意図、経営方針、営業方針などを読んで、その戦略を意味のないものにすることを考える。
 それができなければ、提携関係、友好関係を分断して切り崩す。それが「交を伐つ」ということ。一見強固な提携関係に見えても、時代は大きく変わり、企業の競争環境も刻々と変化している。従来の提携、友好などに囚われていてはそうした変化に対応できない。
 となれば、そこに付け入るスキが生まれる。
 実際の戦闘、ビジネス戦争でガチンコ勝負をするのはその後の話である。なるべく無用な戦いはしないようにする。これが用兵のポイントだ。敵の得意分野にいきなり斬り込んでいくようなことをしてはダメに決まっている。これが城攻めに相当する。下策である。

 そうしたことから、孫子は、もし敵の10倍の兵力があるなら、敵を包囲して一網打尽にせよ、もし2倍程度の兵力なら、相手を分散させてから攻めよと説いた。そしてもし自軍の方が、兵力が少なければ退却すべきだし、まったく相手にならないほどの差があるなら、敵との衝突を避けておかなければならないと言う。要するに、自社と競合企業との差を冷静かつ客観的に評価し意思決定せよということだ。
 そのためには、データで判断するためのIT活用が不可欠である。事実をありのまま積み上げるのはITが得意だ。口頭報告や会議などで、生身の人間から話を聞くのは、たしかにニュアンスとか微妙なさじ加減をつかむのには良いのだが、どうしても主観が混じるし、声の大きな人間の意見に流されてしまったりすることになる。
 特に、競合企業と自社との戦力分析においては、自社の弱みや不利な条件について発言しようとすると、「そんな弱気なことでどうする」「お前がそんな風に考えているからダメなんだ」などと頭から否定する空気になって、まともな議論ができないことが多い。目の前にデータが突きつけられれば、認めざるを得ないようなことも、口先だけでは受け入れられない。
 実際のところ、営業部門などでは、「自社の商品に惚れ込め」「まずは自分の商品を好きになれ」と洗脳教育されていることが多いから、どうしても自社の戦力評価が甘くなる。これがいけない。
 最悪なのが、戦力に劣る会社が「気合では負けない」「山椒は小粒でピリリと辛い」などと言いながら意地や面子、精神論でより経営資源の豊富な大きな会社に戦いを挑むような場面だ。孫子はそれを「飛んで火に入る夏の虫」だと斬り捨てた。餌食になって終わりだよ、と。捕らえられて殺されるだけだよ、と。
 これが、中堅・中小企業では、案外多いから笑い事では済まされない。気合と根性も良い。KKD(根性・根性・ド根性)だ。私も結構好きだ。気合も根性もない人間では話にならない。戦う前から「負けそうだ」「敵わない」と考えていては勝負にもならない。だが、それは現場の一兵卒の話である。

 経営者、リーダー、人の上に立つ人間は、それではいけない。口では「気合だ」「根性だ」と言ってもいいが、腹の中では敵味方の兵力差を冷静に分析、判断して意思決定しなければならない。現場の社員には精神論を求めたいが、経営者まで一緒になって精神論一辺倒では、勝てるものも勝てない。
 それで、冷静かつ客観的に戦力比較をしたら、自社のダメさ加減が身に染みてしまって、経営者自身がすっかり弱気になり、社員の前で「やっぱりうちはダメだ」「うちは小さいから勝てない」などと言っているようでは経営者失格であることは言うまでもない。
 敵の方が強くても、謀を伐ち、交を伐つこともできるわけだから、戦いようはある。そのためにもまずは冷静かつ客観的に事実を「見える化」し、シビアな判断をするべきだ。それをスピーディーにやろうと思えばITを活用するのは21世紀なのだから当然のことだ。
 汗と涙にまみれて、血みどろの戦いを目指すのではなく、賢く頭を使って智恵の勝負をするのだ。そのための孫子の兵法である。ビジネスは戦争だ。だが、殺し合いではない。

現場も『見える化』せずに命令するな

『夫れ、将は国の輔なり。輔、周なれば則ち国必ず強く、輔、隙あれば則ち国必ず弱し。』

「そもそも、将軍は国家の補佐役である。補佐役が君主と親密で意思疎通が図れていればその国は必ず強くなるが、補佐役と君主の間に隙間ができ、関係がギクシャクすると必ず弱体化する。」

『故に、君の軍を患わす所以の者三あり。軍の以て進む可からざるを知らずして、之に進めと謂い、軍の以て退く可からざるを知らずして、之に退けと謂う。是を軍を縻ぐと謂う。三軍のことを知らずして、三軍の政を同じうすれば、則ち軍士惑う。三軍の権を知らずして、三軍の任を同じうすれば、則ち軍士疑う。三軍既に惑い且つ疑わば、則ち諸侯の難至る。是れを軍を乱して勝を引くと謂う。』

「そこで、君主が軍隊に患いをもたらす3つの原因があることを知っておくべきである。まず1つ目に、軍が進撃してはならない状況にあるのを知らずに、進撃せよと命令し、軍が退却してはならない状況にあるのを知らずに、退却を命令するようなことでは、軍事行動を阻害し、拘束しているに過ぎない。2つ目に、軍の内情をよく知らないのに、軍内の統治を将軍と同じようにしようとすると、兵士たちはどちらの指示命令に従えば良いのか惑うことになる。3つ目に、軍における臨機応変の対応に通じていないのに、将軍と同じように現場で指揮を取ろうとすると、兵士たちは疑念を抱くようになる。軍全体に戸惑いや疑念が広がるような事態になれば、それに乗じて周辺諸侯が攻め込んでくるようなことにもなる。こうしたことを、軍の指揮命令系統をかき乱して敵に勝ちを引き渡すと言うのだ。」

 経営者と管理者、社長と幹部との間に意識ギャップや情報の断絶があると、組織はそこからアリの一穴のように、もろく崩れていくものだ。特に上の人間を貶めておいて、下の人間の人気取りをするような幹部や中間管理職は害が大きい。リーダーの補佐役、「輔」どころではない。ヘタに上に位置付けているだけにガンともなる。
 幹部や管理職がそんな感じだと、トップからの信頼関係も薄れてきて、とても任せてはおけないとなって、現場への介入が始まる。社長が現場のこともよく分かっていないのに、あれこれと現場に口出しし始めると、組織は乱れると孫子は説いた。
 口出しするのが悪いわけではない。現場の状況や業務プロセス、実態を「見える化」し、よくつかんだ上で介入するのであれば良い。特に中堅・中小企業ではそうあってもいいだろう。
 幹部、管理職がしっかりしていて、社長の意を汲み、咀嚼して、ある時は社長の代わりに社員からの嫌われ役、汚れ役を買って出るほどであれば、任せて安心。そして事の成り行きをきちんと報告してくれて情報を共有してくれたなら、わざわざ口出しする必要もない。だが、そんな優秀な幹部、管理職ばかりではないから、難しい。

 そこで、経営の「見える化」だ。業務プロセスの標準化を図り、「見える化」することで現場の実体をつかみ、的確な指示が出せなければ、経営者や管理職の指示命令によって却って社員行動を妨げることになりかねない。
 現場の状況をよく把握もせずに、「俺の若い頃にはなぁ、○○したものだ。お前らも○○せよ」などと、過去の経験だけを頼りに部下に対して指示を飛ばしていないか。そんな時に、若い社員から「すみません、社長の若い頃というのは、今から何年前くらいのことをおっしゃっているのでしょうか」と質問されたらどうだろう。「俺の若い頃というのは、今から20年前か30年前か・・・」となるのではないか。「あのー、20年前、30年前は、まだ日本も人口が増えていて景気も良かったのではないですか。今もその時と同じことをやればいいのでしょうか」と真顔で聞かれたりしたら、「ごめん、ちょっと違うかもしれんな」と謝ることになるのでは。
 ベテランで長い経験があることは良いことだ。事例もたくさん知っているし、知識も豊富だろう。だが、それが生きるのは、今、目の前の現実、現場、現状がきちんと把握されている時である。目の前の現実を踏まえた上で、「これは俺が20年前に経験したことと似たようなことになっているから、その時にうまくいった○○という手を打とう」とアドバイスできれば、さすがベテランの智恵、さすが社長、となる。若い社員が持っていない経験知があるわけだから、とても価値がある。
 しかし、現場も見えず、現状もロクに把握してもいないのに、「ああしろ、こうしろ」と指示をすれば、現場はかえって動きにくくなり、経営者や管理職は邪魔な存在となる。では、現場任せにして余計な口出しをしなければ良いかというとそうではない。特に小さな会社では経営者が現場のことにまで気を配り、指示する必要がある。
 そのためには、経営の「見える化」を進めなければならない。そこでデイリーモニタリングシステムをおすすめしたい。

 企業を人体に喩えれば、現場の社員は、手であり足であり目であり耳である。マーケットやフィールドや現場に出て、そこでの情報をキャッチしてくる。その情報を大脳に届けるのが「日報神経」だ。大脳にはマネージャーや経営者がいる。そこで現場の情報に基づき意思決定が行われ、現場の社員に対して指示がなされる。それがまた手や足や目や耳に戻る経路が「日報神経」だ。神経だから本当は、「日報」ではなく「時間報」にしてやり取りされる頻度を上げたいくらいなのだが、それでは現場の業務があまりに煩雑になるので、一日一回は最低一往復するように「日報」とする。これがデイリーモニタリングシステムだ。今どきだから、当然、紙ではなくITを使う。スピードが速いからだ。神経なのだからトロくては意味がない。もちろんITを使えば良いわけではなく、ITを使っても「IT週報」ではダメだ。伝送スピードが速くても、伝送される情報の鮮度が悪ければ意味がない。だからやっぱり「IT日報」でなければならない。
 この「日報神経」がない会社は、現場から口頭や紙でトロトロと「伝言ゲーム」を行うことになる。情報が伝わるのも遅いし、伝言している間に間違った情報に変わってしまったり、意図的に情報を止められることもある。社長にとって耳障りの良い情報ばかりが伝わってくるのは、そうした事情だ。バイアスのかかった、古い情報を元にして、「ああしろ、こうしろ」と指示命令だけは発したとすれば、現場の社員にとってはいい迷惑でしかないし、競合企業との戦いには勝てない。

 経営者や幹部、管理職の智恵や知識や情報を活かすには、現場の情報がタイムリーに「見える化」され、それに基づく指示がまた瞬時に現場にフィードバックされる仕組み、仕掛けを作っておく必要があるのだ。
 そうでなければ、孫子に「経営の見える化もせずに余計な命令をするな!」と叱られてしまう。

彼を知り己を知り勝利を見極めよ

『故に、勝を知るに五有り。以て戦う可きと、以て戦う可からざるとを知る者は勝つ。衆寡の用を知る者は勝つ。上下の欲を同じうする者は勝つ。虞を以て不虞を待つ者は勝つ。将の能にして君の御せざる者は勝つ。此の五者は勝を知るの道なり。』

「そこで、勝利を得るために知っておくべきポイントが5つある。1つは、戦うべき時と戦うべきではない時の見極め。2つ目は、大部隊と小部隊の任用、運用方法の違いを知ること。3つ目は、上下の情報共有と意思疎通ができていること。4つ目は、事前の計画や段取りが周到で敵を待ち受ける準備ができていること。最後に5つ目は、将軍が有能であって、君主が過剰な口出しをしないことである。この5つが、勝てるかどうかを見極める上での要点である。」

『故に曰く、彼を知り己を知らば、百戦殆うからず。彼を知らずして己を知らば、一勝一負す。彼を知らず己を知らざれば、戦う毎に必ず殆うし。』

「したがって戦いに際しては、相手(敵軍)の実情や実態を知って自己(自軍)の状況や実態をも知っていれば、百度戦っても危険な状態に陥ることにはならない。相手(敵軍)の実情を把握せずに自己(自軍)の実情だけを知っているという状況であれば、勝ったり負けたりが五分五分である。相手(敵軍)のことも知らず、自己(自軍)のことも知らないようでは、戦うたびに必ず危険に陥る。」

 孫子は勝つためのポイントを5つ挙げた。敵と味方の比較をする際の視点と言っても良い。この5つのポイントはそっくりそのまま、現代の企業経営に当てはめることができるだろう。
 まず、経営において力を入れるべき攻め時と無理をせず守りを固める時との見極めが重要である。そもそも勝てない戦はしないのが孫子兵法だ。経営は自社だけの問題ではなく、環境や競合、顧客など多くの要因が絡まり合うから、ただ頑張っていれば良いのではなく、敢えて退く時があってしかるべきである。しかし、ついつい頑張る。真面目に頑張る。頑張ればなんとかなるように思うし、頑張らないとまずいような気がして罪悪感すら湧く。やはり、退き時が難しい。
 そして多くの会社、経営者が犯す間違いが、中小企業なのに大企業の真似をしようとすること。良い会社の例がだいたい大企業だからなのか、経営書が大企業向けに書かれていることが多いからなのか、中小企業に大企業の手法をそのまま持ち込もうとする経営者が少なくない。これは大間違い。小さな会社には小さな会社なりのやり方がある。大企業の真似をしてもだいたい失敗するし、大企業にいた人間を優秀だからと思って中小企業に連れて来ても思ったほど活躍しないことも多い。やり方が違うのだ。
 さらに、経営者と社員の間で、企業目的や理念、ビジョンの共有ができ、何のためにやっているのか、目の前の仕事の目的は何なのかが明確になっていなければならない。ベクトルの向きが違えば、個々は頑張っていても全体としての力にはならないし、若い人を中心に給料を稼ぐために、イヤイヤでも仕事をするということがなくなってきている。ダニエル・ピンクは、給料を稼ぐために働くのを「モチベーション2.0」、意義や使命を感じて自発的に取り組む仕事のあり方を「モチベーション3.0」と名づけた。まさに今「モチベーション3.0」が求められているのだが、それも2500年前の孫子の兵法から読み取れるとするとなんともおもしろい。
 加えて、上司と部下の間で情報が共有されたり意思疎通が図られることの重要性は当然のことながら時代の壁を越えた原理原則だ。
 また、事前に考え、仕込み、準備して待ち伏せするかのような戦い方をする。そこにロクに準備もしていない競合企業がやってくれば、勝つのは当然である。小さな会社、中小企業が、ロクに準備もせず、経営計画も創意工夫もなく、ただ単に当たって砕けろ式で精神論経営をしていては砕け散るのは時間の問題である。

 最後に、中間のマネージャーや幹部が有能で、任せて安心と言えればそれに越したことはないが、中堅・中小企業ではなかなかそうも行かないので、経営者が現場の状況を把握し陣頭指揮を執ることも多いだろう。だが、その場合にもあまりに過剰な介入をしてしまうと、社員の成長を阻害し、萎縮させてしまうことになりかねない。小さな会社が大きな会社へと脱皮し、成長していくためには、この最後のポイントが重要だろう。幹部が育たなければ組織的な動きを広げていくことができない。経営者マインドを持ち、経営者の意図を汲み取って仕事を進められる幹部がどれだけいるか、育てられるか、ここがポイントであり、ここが難しい・・・。
逆に言えば、ここができてもいないのに、大企業の真似をしようとしてもうまく行かないのは必然である。

 そして、この5つのポイントを受けて、謀攻篇の最後に孫子の中で一番有名な一節が登場する。
 敵の動きをつかみ、味方の把握もきちんとできていれば、百回戦っても危なげなく戦える。これは敵の方が強くて味方が弱いと分かれば逃げることも含まれているから、百戦百勝ではなく、百戦殆うからず、となる。敵の把握は不充分でも、味方の掌握はしっかりできていれば、勝ち負けは五分五分となる。敵の把握もできておらず、味方の動きもつかんでいないとすれば、毎度毎度危ない目に遭うに決まっている。
 当り前と言えば当り前の話なのだが、この一節は企業経営、マネジメントの要諦を示している。彼を知るとは、顧客ニーズや競合の動きをつかむことであり、マーケット情報と言っても良いだろう。ここが企業経営の出発点である。マーケットニーズも把握せず、競合商品も研究せずにビジネスをすることはできない。
 そして、つかんだ顧客ニーズに対応し、競合の動きに対抗する、自社の状況をつかんでおかなければならない。己を知る、だ。マーケットニーズが把握できれば、それに対して自社がどう対応し、アプローチしているのかを知らなければならない。クレーム対応、要望対応とも言えるもので、放置はできないし、その状況を知らないようでは、経営はできまい。競合対策もどうだろうか?現場任せや営業任せになっていないか?敵のことを知らない将軍が指揮をとってはそれこそ孫子の兵法に反することになる。

 彼を知り己を知れば、当然そこに軌道修正や指導がなされて、マーケットニーズと自社の対応状況とのマッチングが行われなければならない。何もしないのでは知った意味がない。それは当然のことながらタイムリーに、日々日々行われなければならない。マッチング作業が週単位、月単位、四半期単位で行われていては、常に変化するマーケットニーズに対応することなどできないからだ。特に小さな会社が経営スピードで勝負しようと思えば、ここのサイクルを速くすることは必須である。

 ここにおいて必須となる3つの機能、「マーケット情報収集機能」「自社対応状況管理機能」「日次行動修正機能」を整備しスピードアップし精度向上させることがマネジメント力アップにつながる。私は20数年来、経営コンサルタントとして色々な手法やシステムを考えてきたが、これを実現する仕組みはどうしても「日報みたいなもの」になる。なぜなら「デイリーモニタリングシステム」でなければならないからだ。
 定量的な情報はシステム的に吸い上げられるが、定性的な情報はどうしても誰かが入力しなければいけないから、現場の社員の目線からは「日報」を入力するようなことになる。
 これを紙でやっていた時には二度手間、三度手間がかかって大変だったが、今はITだから手間は減った。おまけに携帯電話からも入力できたりするし、どこへいってもネット環境があるから、5年前と比べれば格段にやりやすくなった。「日報」と言ってしまうとなんだかイメージが悪いのだが、「デイリー」でなければ情報の鮮度が落ちてしまうから仕方ない。私はこうした一連の経営支援システムを「可視化経営システム」として整備してご提供する業務も行っている。
 孫子の兵法を21世紀の企業経営に活かすためには、講釈だけではなく武器も用意しなければならないという信念からである。「兵学者」ではなく「兵法家」であれ。

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