孫子の兵法

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孫子の兵法-作戦篇 経営は拙速を尊ぶ

『其の戦いを用うるや、勝つことを貴ぶ。久しければ則ち兵を鈍らせ鋭を挫く。城を攻むれば則ち力屈き、久しく師を暴さば、則ち国用足らず。夫れ、兵を鈍らせ鋭を挫き、力を屈くし貨を殫くせば、則ち諸侯其の弊に乗じて起こる。智者有りと雖も、其の後を善くすること能わず。』

「戦争を遂行する際の一番の目的は勝つことであり、戦争を長期化させてしまうと軍を疲弊させ鋭気を挫くことになる。敵の本拠である城塞を攻めるようなことになれば、戦力を消耗させてしまうことになるし、長期間の戦争行動は国家財政の破綻を招くものとなる。もしそのような軍を疲れさせて鋭気を削ぎ、戦力を使い果たして財政も尽きることにでもなれば、周辺諸侯がその困窮に乗じて挙兵してくるような事態に陥る。事ここに及べば、もし智謀に長けた人材がいたとしても、もはや善後策を講じることはできない。」

『故に、兵は拙速を聞くも、未だ巧久なるを賭ざるなり。夫れ兵久しくして国を利する者は、未だ有らざるなり。故に尽く用兵の害を知らざる者は、則ち尽く用兵の利をも知ること能わざるなり。』

「だから、戦争には多少拙い点があったとしても速やかに事を進めたという成功事例はあるが、完璧を期して長引かせてしまったという成功事例はない。そもそも戦争が長期化して国家に利益があったなどということは、未だかつてないのだ。したがって、軍の運用に伴って生じる様々な弊害を知り尽くしていない者には、軍の運用によって生じる利点や有効性についても知り尽くすことはできないのだ。」

 企業経営は勝たなければならない。特に人口減少のマーケット縮小が避けられない日本国内では引き分け経営、後追い経営、モノ真似経営をしているとジリ貧に陥る。マーケット全体が拡大し、多少負けていても成長できた時代を引き摺ってはならない。
 引き分けでいい時と勝たなければならない時とでは戦い方が違う。スポーツでもリーグ戦などでは、今日は必ず勝って勝ち点3を取らなければならない、という時の戦い方と、今日は引き分けで勝ち点1が取れればいい、という時の戦い方は自ずと違う。選手も替えるかもしれないし、フォーメーションも違うかもしれない。勝たなければならない時には、多少リスクを犯してでも、守りを薄くして攻めを厚くするだろう。
 人口減少の世紀、21世紀において、19世紀、20世紀にやってきたような経営をしていてはならない。

 組織をまとめ、活性化することを考えても、勝つ方が良い。何をもって勝つと言うかはいろいろある。業績アップ、新規受注、プロジェクト完了、その日のタスク終了。日々、勝利の局面を増やすことが重要である。そしてそれを個人別、部署別でクローズせず、全社で共有する。一人の成果を全体の成果にしていく。一部署の勝利を全社の勝利にするのだ。勝利を全員で分かち合うことだ。それを演出すること。
 そのためには事前に計画を立て、途中段階にプロセス目標、マイルストーンを置く。そしてそれを評価しフィードバックする。評価、フィードバックまでの期間が長いと個々人の意識が続かない。たとえば賞与の対象期間を四半期ごとにしてみるのも良いだろう。一番分かりやすいフィードバックだ。部署ごとに月間MVPが選ばれても良い。プロ野球でも打率、本塁打、打点など複数の評価視点があるように、企業でも視点を変えれば、多くの人を評価してあげられる。
 もちろん毎日の日報で上司がコメントを返すのも有効なフィードバックだ。「いいね」「サンキュー」「Good Job!!」だけでもいい。多少給料に差がつくよりも、周囲から認められることに価値を置く人も増えている。

 営業面では、キャンペーンを張ることもあるだろう。その場合も期間限定でこそキャンペーンの意味がある。ズルズルと年がら年中キャンペーンをやっていてはキャンペーンがただのディスカウント企画の安売りオンパレードになったりするし、延々とやっていたのでは、営業担当者が疲弊しモチベーションも上がらない。
 勝てない戦いをズルズルと長期間やっていては、余計な経費がかかり、社員が疲弊するばかりで最後は経営が行き詰まる。勝てないとなれば、早々に退くタイミングを探るべきだろう。
 ジリ貧経営でチマチマやっていたら、同業他社からM&Aで狙い撃ちだ。高い値段で買収してくれるならまだいいが、破綻した後の再生を狙われたりしたら、良いところを持っていかれるだけになる。

 計画段階、戦略立案段階では、勝てるイメージができるまでしっかり練り込まなければならないが、いざ実行段階になれば拙速を尊ぶ。スピードは最も費用のかからない差別化ポイントであり、これだけ変化の激しい時代に、トロトロしていては話にならない。孫子も、多少まずいところがあってもスピーディーに事を進めてうまく行ったという話は聞くが、完璧を目指して時間をかけてうまく行ったという話は聞かないと言っている。
 経営スピードを上げるためには情報伝達スピードを上げるしかない。企業を人に喩えれば、神経のスピードと言える。

 企業にとって、手となり足となり目となり耳となる現場の人間がつかんだ情報が神経を通って幹部、経営者がいる大脳に伝わる。そこで意思決定が行われて、必要な指示やアドバイスがまた神経を伝って現場に戻る。この情報の流れが速くならなければ、企業行動は速くならない。
 神経スピードを上げるためには、ITを活用するしかない。これだけパソコンが普及し、携帯電話が当り前になり、インターネットにどこでもつながる時代になったのに、未だに「紙を使い、手書き文字で書くアナログの方が、味があっていい」などと言っている経営者にお目にかかることがあるが、ITはブームだから使うのではなく、スピードを上げるために使うものなのだ。どんな味かは知らないが、味よりもスピードが優先ではないのか?

 たとえば、現場のデータを集計して表にしたりグラフにすることだけを考えても、手書きのデータをFAXで集めて、表計算ソフトに入力して・・・とやっている間に、ITをうまく使えば、現場で集めた情報が自動的に集計されて瞬時にグラフ化されてくる。これだけでも明らかに経営スピードが変わってくる。アナログ方式でやっていても今ではどうせ最後はパソコンを使って清書、グラフ化することになるし、パソコンもすでに持っている。今あるパソコンを上手につなげて仕組みを作れば、経営スピードを上げる神経網を全社に張り巡らせることができるのだ。私はこれをIT日報を使って整備し、「日報神経」と呼んでいる。「可視化経営」を実現するための全社に張り巡らされた神経なのだ。これで経営が速くなる。

冷静に敵の資源を取り込め

『智将は務めて敵に食む。敵の一鍾を食むは、吾が二十鍾に当る。』

「敵地に遠征している優れた将軍は、敵地での食料調達を考えるものである。敵の穀物を一鍾(約120リットル)食べることは、自国から運んだ二十鍾に相当するものだからである。」

『敵を殺す者は怒なり。敵の貨を取る者は利なり。故に車戦に車十乗已上を得れば、其の先に得たる者を賞し、而して其の旌旗を更め、車は雑えて之に乗らしめ、卒は善くして之を養わしむ。是れを敵に勝ちて強を益すと謂う。』

「敵を殺してしまうのは、思慮を失い憤怒にかられたものであり、敵の物資を奪い取って利用するのはその利を冷静に判断するものである。だから、戦車戦で十両以上の戦車を奪い取った場合には、それに先んじた者に賞を与え、その旗印を味方のものに取り替えて、自軍の隊列に加えて乗車させよ。さらに捕らえた捕虜は丁重に扱って自軍に取り込む。こうした戦い方が、敵に勝つたびに自軍の戦力を増強していくということなのだ。」

『故に、兵は勝つことを貴び、久しきを貴ばず。故に兵を知る将は、民の司命、国家安危の主なり。』

「こうしたことから、戦争では速やかに勝利を得ることを重視し、長期化することを評価しない。だからこそ、こうした戦争の利害・得失を理解している将軍が、人民の死命を制するリーダーとなり、国家の命運を司る統率者となれるのである。」

 孫子は、食料調達は敵地で行えと説いた。自国から敵地まで物資輸送することを考えれば、敵地で調達したものは20倍の価値があると言うのだ。戦争には多大な戦費が必要だ。ヘタをすると国の財政がアウトになる。何度も徴兵を繰り返したり、遠くまで遠征するようなことをしていては、人心は離れ、国家は疲弊する。
 だから、使えるもの、食べられるものは、敵のものだろうが、何だろうがうまく利用せよというわけだ。

 現代の企業経営でも、敵の経営資源をうまく活用することができれば、何倍もの効果、価値を産むことができると考えられるだろう。
 たとえば、競合企業だからと言っても、すべてにおいて利害が反しているわけではない。新商品や新規事業を開拓しているような場合には、敵でもあるが、一緒に認知度を上げ、啓蒙を進める同志とも言える。
 競合がいて価格差、製品差があるから、顧客に説明しやすいこともある。競合先よりも自社の方が相対的に優位に立っていれば、比較対象にすることで自社を引き立てることも可能だ。もちろんこちらが劣位にあれば、領域、分野を絞り込んで優位な面を浮き立たせる。それも比較対象があればこそ、だ。
 競合が新製品を出してきたり、低価格を実現した時には、「どういう意図や狙いで新製品を出してきたのか」「なぜ低価格を実現することができたのか」「なぜ今なのか」と一歩踏み込んで考えてみる。すると競合企業の研究開発やマーケティングや仕入、調達などが自社に智恵やヒントをもたらしてくれる。参考になるのは競合だからこそ、である。それで単に後追いのモノマネをしたのでは、孫子の兵法を活用することにはならないが、自社にはないリソースを活用できるという点では、敵地での食料調達に通じるものがある。自社の代わりにいろいろ考えてくれていると思えば、有り難いではないか。

 孫子は、怒りに任せて敵を殺してしまい、物資や兵器を焼き捨てるようなことはせず、自軍の利を冷静に考えて、敵の装備や兵隊をも取り込んで行くべきだとも説いている。
 そうすることで、戦いを重ねるごとに兵力を増していくことができる。普通なら、戦うたびに戦力を失い、勝ったとしても多大な損失を残してしまうことになるだろう。それを「敵憎し」で感情的になって、後先を考えないようでは、リーダー失格だ。
 現代の企業経営においても、競合企業が憎い、腹立たしい、潰れて欲しいと思うことがあるだろう。自社の行く手を阻む邪魔な存在だ。競合企業がマスコミに取り上げられ、テレビにでも出演したとしたら・・・・・・。「この野郎、調子に乗りやがって・・・」と文句のひとつも言いたくなる。だからと言って、お互いが足を引っ張り合い、いがみ合っていてもプラスを生むことは少ない。マーケットが縮小していく中で、勝った負けたとやっていても、どちらもジリ貧に陥る。テレビに出て、扱い商品やサービスをアピールしてくれたら、良い宣伝になったと考えてもいいだろう。腹は立つし、自社が取り上げられずその競合が取り上げられたのは気分が悪いが、それで興味を持つ人が増えてくれれば自社のプラスにもなる。

 場合によっては、同業者、競合先だからこそ統合してお互いの経営資源を有効利用することを考えるということもあるだろう。すでにマーケットが飽和している大手企業はそうせざるを得なくなって、M&Aによる業界再編が当り前になっている。もはや合従連衡ネタには驚かない。永年戦ってきたライバル同士が、一夜にして共に戦う同志になる時代なのだ。大手になればなるほどマーケット全体の縮小が影響してくるから背に腹は代えられなくなって、仕方なく統合する。今後もそうした事例が出てくるだろう。
 そこで提言。M&Aは大手企業のものだと思わずに、中小企業でも検討すべきだ。仕方なく合併する、というのではなく、前向きなM&Aだ。私はM&A(合併、買収)ではなく、N&Iだと言っている。ネットワークとインテグレーション。連携と統合だ。中小企業はN&Iでなければうまくいかない。
 しかし、うまくやれば、後継者不足で困っている中小企業も多いから、良いマッチングができれば、新しい事業展開と事業承継が同時に可能となる。それが同業の競合企業であれば、設備や人材も活かしやすいし、エリアが相互補完的になっていれば、それこそ効果が出やすい。事業の継続、雇用の維持を図りながら、経営者のハッピーリタイアもできるし、事業展開のスピードを速めることもできる。その時に、永年の恨み辛みで、「あそことは組みたくない」「あいつは気に入らない」と感情的なことを言っていては孫子に笑われる。
 自社の利を考え、冷静かつ客観的に事業を継続させ、発展させる道を探るべきである。

 孫子は、勝つこと、すなわち目的を達成することに集中し、ズルズルと戦いを長期化させてはならないと説いた。そうしたものの道理(戦いの本質)を理解している経営者こそが、企業の命運を握る守護者であり、社員をリードし、企業を存続させる統率者であることを許される。
 人口減少によるマーケット縮小で、じわじわとデフレが続く厳しい環境の中、競合とガチンコでぶつかりながら、特に智恵もなく小手先の値引き商法でなんとか切り抜けようとしても無理である。日本国内の人口減少はずっと続く。新興国マーケットの成長も地球環境や資源問題で限界がくる可能性が高い。
 勝たなければ生き残ることはできない。敵の資源を取り込むくらいのことは平然とやってのけなければならない。

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