孫子の兵法

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孫子×DX 戦略的DXとは

2024-03-28

 DX推進リーダーが決まりデジタル化への機運が社内で高まって来たところで、自社の戦略を見直したい。そこで、孫子の兵法、謀攻篇に入る。
 DXは最終的に競争優位を確立することを目指す。経産省のDX定義にも「製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と書かれているし、「競争優位の確立」と言われても特に違和感はないという人が多いだろう。
 だが、孫子兵法家はここをスルーしてはならない。競争上の優位性とは誰との競争なのか、何とどう比べて優位だと考えるのかという点を見逃していては戦いには勝てない。まず、誰と戦うのか、誰と戦わないのかを決めることが大切となる。そこでどう戦うのかというストーリーが戦略だ。戦略もなく、ただデジタル化し、業務を効率化するだけでは真のDXとは呼べないのだ。
 孫子は戦略とは戦いを略すことであると教えてくれている。

<謀 攻 篇>
 『百戦百勝は、善の善なる者に非るなり。戦わずして人の兵を屈するは、善の善なる者なり。』
◆現代語訳
 「百回戦って、百回勝利を収めたとしても、それは最善の策とは言えない。実際に戦わずに、敵を屈服させるのが最善の策である。」
◆孫子DX解釈
⇒戦わずして勝つ戦略を立て、それを実行する方法、仕組み、仕掛け、ビジネスモデルをデジタルで実現せよ。

 戦略的なDXにするためには、まず自社に戦略がなければならない。最善の戦略は戦わずして勝つことである。全く戦わないのは無理だとしても、出来るだけ戦いは避け、戦うにしても真正面から激突するような戦いは避けるべきである。これが孫子の教えだ。兵法家なのに、なるべく戦うなと説いた。敵がいないところを攻めれば戦いはない。敵は誰で、誰と戦わないのかを決める。これを現代の企業経営に置き換えるとドメイン(事業領域)を独自なものにすると考えれば良い。
 一般に、自社のドメインは、肉を売っていたら肉屋であり、家具を作っていたら家具製造業であるというように「物理的定義」で認識されている。そして多くの場合、競争上の優位性における競争の場所と優位か劣位かの比較は、暗黙のうちに同業者、業界内をイメージしている。これではわざわざ血みどろの戦いをしに真正面から敵と対峙するようなもので、孫子の兵法をまるで実践できていないことになる。
 戦わないためには、ドメインシフトする必要がある。ドメインは物理的定義から機能的定義か便益的定義に置き換えて、それによって自社が戦う方向性を明確にすることが重要である。同業者との戦いを全くゼロにするのは難しくても、決して正面からは戦わない。家具製造業を例に分かりやすく言えば、機能的定義では収納機能提供業や室内装飾業といった表現ができる。便益的定義では快適生活実現業やリラクゼーション提供業といった切り口にしても良い。実務的にはもうちょっと捻りを加えて更に独自性がある方が良いが、ドメインを決めたら、そこから逆算して、それならその実現手段は家具でなくても良いのではないかと考えてみる。収納機能付き住宅や家具付き賃貸などはそうした発想の転換から生まれたかどうかは分からないが、家具製造という自社のノウハウも活かしながらドメインシフトするイメージができるだろう。家具が必要ない収納機能が組み込まれた家を建てたり販売している企業は何業と呼ぶべきだろうか。自社で作った家具を予め配置した賃貸住宅を提供している企業はもはや家具製造業とは言いにくいだろうし、不動産賃貸業・不動産販売業ともちょっと違うと言いたいだろう。
 これが、戦いを避け、真正面からの激突を避けるドメインシフトだ。
 そして、新たなドメインで提供すべき価値をデジタルで増幅させ、差別化要素を大きくさせることを考えると良い。その際には、まさに血みどろの戦いを避ける戦略として有名な「ブルーオーシャン戦略」を思い出すと良いだろう。孫子兵法家にとってはブルーオーシャン戦略は孫子のパクリかな?と突っ込みたくなるような当り前の話だが、そこで出てくる「戦略キャンバス」は分かりやすいので活用したい。顧客がその企業なり商品・サービスを選択する際の要因を並べて、無くしたり減らしたりする要因と大きく突出させる要因とを明確にする図示手法だ。
 分かりやすい例が10分カットの「QBハウス」。シャンプーや顔剃りを無くして、その分時間を10分に短縮。予約もない代わりにネット上でどの店も待ち時間が分かる。売り物は理髪サービスではなく「省時間」である。単に価格を下げただけの価格競争ではなく、価格を下げてもより以上に売上が上がるビジネスモデルを構築したわけだ。当初は三色燈と呼ぶ赤、黄、緑のライトを店外に設置して待ち時間を示しているだけだったが、今やデジタル活用され、混雑状況の予測までされている。
 QBハウスを参考にして、自社でも競争要因のメリハリをつけて、デジタルでそのマイナス部分を補い、プラス部分を増幅、増大させるビジネスモデルを作れないか検討してみよう。それが出来たら、そのデジタル活用は、戦略的なDXと呼ぶことができるだろう。

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