孫子の兵法

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孫子×DX 社長の過剰介入は避ける

2024-04-08

 戦略的なDXによって競争優位を確立して行こうとすると、当然経営トップの意思決定が必要となる。デジタルは苦手だからとDXの検討から距離を置いていた社長であっても巻き込まなければならない。それが出来るくらいのDX推進リーダーであって欲しいし、そもそも社長が信頼し諫言をも受け入れるほどの人材をDX推進リーダーに任命してもらいたい。
 だが、物事はそう簡単に思い通りには行かない。DX推進リーダーを任命したのだから、彼に任せて社長は裏からバックアップしたり、ある時は盾となって社内の抵抗勢力からの攻撃を防御する役割に徹してくれればいいのに、戦略の検討で出番があったりすると、あれこれ口出ししたくもなって来る。一方のDX推進リーダーも、そう理想的な人材がいるものではないから、信頼して任せてみたものの社長から見ると、頼りなく感じたり、進捗が遅いように感じたり、もっとこうした方がいいとアドバイスしたくもなって来る。
 DX推進プロジェクトがうまく進むかどうかは、社長とDX推進リーダーとの信頼関係、協力関係、位置関係にかかっていると言っても過言ではない。
 社長があまりにも無関心で、DX推進リーダーに任せっきりでフォローもしないようでは、社内に「社長は本気じゃないな、あまり乗り気じゃないな」というメッセージを伝えることになる。だからと言って、社長があれこれ口を出し、DX推進リーダーをないがしろにするようなことをしてしまうと、社員は全員、社長の方を向いてしまい、DX推進リーダーの推進力が大きく減衰することになる。
 こうした問題は、2500年前の孫子の時代にも当然あったわけで、孫子はこう教えてくれている。

<謀 攻 篇>
 『軍の以て進む可からざるを知らずして、之に進めと謂い、軍の以て退く可からざるを知らずして、之に退けと謂う。是を軍を縻ぐと謂う。』
◆現代語訳
 「軍が進撃してはならない状況にあるのを知らずに、進撃せよと命令し、軍が退却してはならない状況にあるのを知らずに、退却を命令するようなことでは、軍事行動を阻害し、拘束しているに過ぎない。 」
◆孫子DX解釈
⇒デジタル活用のことも現場の業務もよく分かっていないのに、社長があれこれ口を出すと現場を委縮させ、DXはあらぬ方向に向かうことになる。口を出しても良いがしっかり勉強してからにしよう。

 孫子は、国王と将軍との間の信頼関係が崩れた時に、国王がやらかしてしまう軍に対する阻害行為を挙げて国王を諫めた。現場の実態もつかまずに余計な口出しをすると、組織の指示命令系統を乱して、敵に付け入る隙を見せてしまうことになると言うのだ。
 ここでの問題は、国王(社長)が現場の状況、実情をつかんでいないことである。孫子は国王に一切口出ししてはならないと言っているわけではない。最前線の現状がよく分かっていないのにあれこれ指示をするのがいけないと指摘している。
 DXでも全く同じことである。社長が先頭に立ち、DX推進リーダーと二人三脚で自社のデジタル化に取り組んでいるなら大いに口出しして結構。むしろその方が望ましい。だが、実際には社長の多くはデジタルが不得手だったり苦手意識があったりするからこそ、DX推進リーダーを任命していることの方が多いだろう。デジタルに限らず現場の業務であっても、5名もいないような小さな組織でもない限り、社長がすべての業務を細かく把握していることはないだろうし、企業が成長発展して行くためには細かい業務は現場に権限移譲して社長がいなくても回るようにして行くべきでもある。
 デジタルのことも現場の業務のこともよく分かっていないのに(それが決して悪いわけではないが)、あれこれ「ああした方がいい」「こうした方がいい」「いやそれはどうかな」などと口出ししてしまうのはよろしくない。言いたいことがあるなら、DX推進リーダーを別途呼んで裏で擦り合わせをすれば良いのであって、他の社員もいる場で、DX推進リーダーの権威を阻害するような言動は避けるべきである。
 もっと言えば、過去からの慣習、業界の常識などに凝り固まっている可能性の高い社長の考えではなく、そうした過去のしがらみから離れて自由な発想でDXを進めるためにも、DX推進リーダーを信じて、多少の違和感には目をつむって進めさせてみるくらいでも良いだろう。もちろん、そこであまりにも逸脱した方向に進みそうになったらブレーキをかけられるように、DX推進プロジェクトの検討内容には関心を持ち、中身を見ておかなければならない。
 口出しするのが悪いのでなく、現場の実情を知らずに口出しするのがまずいのだ。紀元前の戦争でも21世紀のDXでもトップの器量や度量が求められるということを忘れてはならない。

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