孫子の兵法

孫子
 言わずと知れた、最古にして最強の兵法、『孫子』。2500年も前の、中国春秋時代に呉の兵法家、孫武によって著された兵法をただ漢文の古典として読むのではなく、現代の企業経営や組織運営、ビジネス、仕事の仕方に置き換え、応用し、実践のための智恵として活用したい。これが孫子兵法家を名乗る私の使命感です。
 この孫子ブログ「経営風林火山」は、2500年もの間、洋の東西を問わず、評価され続けて来た珠玉の教え、孫子の兵法を21世紀に生きる智恵としてどう解釈すべきかを、その時々のトピックに絡めてお伝えするものであり、孫子兵法家、長尾一洋の独自解釈も思い切って盛り込んだブログです。
 長尾一洋オフィシャルサイトには、「ブログではない雑記」というものもあって、そちらではブログを書きたくないから雑記にしたと書いているのですが、その当時からはブログの位置づけも大きく変わり、SNSが全盛の今となっては、ブログだろうと雑記だろうと似たようなもので、あまりそこにこだわるのもどうかということで、こちらではブログとしております。そのため、雑記と同様に、コメントなどの機能はありません。お許しください。
 
孫子
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孫子×DX 社員に自信を持たせる

2024-03-15

 ノーコーダーを養成する中で、自社を良くしようとする当事者意識と他者を巻き込むリーダーシップを持った人間を抜擢して、DX推進リーダーに任命したい。必ずしもデジタルが得意である必要はない。ノーコードツールを使えれば良いのであって、大切なことは当事者意識であり、自社を良くしようという思いである。
 そして、DX推進リーダーに選ばれた人には、DXの本質を理解してもらっておくことが重要となる。それによって、孫子が言う「兵を知る将」となり、「民の司命、国家安危の主」となることができる。

<作 戦 篇>
 『兵は勝つことを貴び、久しきを貴ばず。故に兵を知る将は、民の司命、国家安危の主なり。』
◆現代語訳
 「戦争では速やかに勝利を得ることを重視し、長期化することを評価しない。だからこそ、こうした戦争の利害・得失を理解している将軍が、人民の死命を制するリーダーとなり、国家の命運を司る統率者となれるのである。」
◆孫子DX解釈
⇒長期プロジェクトにせず、まずは短期プロジェクトで成果を出せ。社員に勝てる!やれる!という実感を持たせることのできる人間がDX推進リーダーとなるべきである。

 DX推進リーダーなどと呼ぶと、やはりデジタルに詳しい人間でなければならないのではないかと思うかもしれないが、そうではない。この段階で大切なことは社員の過半が「これならやれる」「これならできそうだ」「これなら勝てる」という自信を持つことである。人間はできそうだなと思うからそれに向けて努力するのであって、自分にはできそうにないと思えば、あれこれ理由をつけ、言い訳をして拒否したり否定したりするものだ。
 その意味では、DX推進リーダーは、それまでデジタルとは無縁で、どちらかと言えばアナログな人だと思われていたくらいの方が適任であるとも言える。そんなアナログな人が、ノーコードを学び、ノーコードツールを使いこなして、ちょこちょこっと自作の業務アプリを作ったりすると効果てきめん。「あの人にもできたのだから、自分にもできるのではないか」「あの人も頑張っているのだから自分も頑張ろう」と思わせることができる。
 まずは短期の小さなプロジェクトを成功させて、社内の空気を前向きにさせよう。
 そして、DX推進リーダーは「兵」を知ること。孫子の言う兵とは戦争のことであり、その本質をつかめと教えてくれている。ここでの「兵」はDXでありデジタル活用による競争優位の確立である。その本質は、「限界費用ゼロでビジネスを拡大させる武器を手に入れ、その武器を使いこなすこと」にある。
 これを理解せずに、ただデジタルツールを導入し、社員にPCやスマホを持たせて業務を効率化すればDXだろうと考えていては、目先のコストダウンやスピードアップ程度の成果は得られても最終的な勝利には結びつかない。それでは「民の司命、国家安危の主」にはなれないのだ。
 DXの本質は、限界費用ゼロというデジタルの特性を最大限に活かすことであり、さらに顧客増、件数増、取引増によって固定費用の按分をもゼロに近づけるものだ。
 限界費用が分からない人は、会計の勉強もした方が良いが、簡単に言えば変動費のこと。デジタルを使うと、顧客が一軒増えたり、取引が一回増えても、追加的に発生する費用(限界費用・変動費)はほぼゼロである。だからIT企業は法外な利益を出しているのだ。デジタル化するとコストダウンが実現するのも限界費用がゼロだからだ。まずこのことを頭に入れておこう。
 但し、それだけでは固定費が残る。システムを導入したりデジタル化するための初期投資があり、その維持にも費用がかかるし、それを動かすための人件費も必要だから、すべてのコストが下がるわけではない。だがそれらは固定費なのだから、顧客増、件数増、取引増に伴って比例的に増えていくことはない。
 だからこそ、顧客増、件数増、取引増を進める。そうすると、固定費の按分が減る。一顧客当たり、一件当たりのコストが、数が増えれば増えるだけ減少し、やがてほぼ意識しなくても良いようになる。簡単な例で説明すると、1億円の固定費があっても、1億件の取引を限界費用ゼロでこなせば、1件あたり1円となって、ほぼコストは意識しなくても良くなるということ。だから世界中に何億、何十億というユーザーを持つグローバルIT企業は、莫大な利益を上げている。GAFAMはその典型例だ。
 DXとは、このデジタルの特性を自社の経営に取り込むことである。従って、業務効率を上げてコストダウンするといった内向きの生産性ばかりを考えるのではなく、顧客を増やし、取引件数を増やすためにデジタルを活用することを優先すべきなのだ。特に、中小企業の場合は、元々のコストの絶対額が小さいので、業務効率アップによるコストダウンを考えているだけでは成果が限定的で、デジタルの特性を活かし切れない。
 デジタル人材がいない中小企業は、営業DXから進めるべきであるというのは、こうした理由による。詳しくは拙著「売上増の無限ループを実現する営業DX」をお読みいただきたい。

孫子×DX 拙速を尊ぶノーコード

2024-03-07

 IT化やデジタル活用に消極的な経営者の多くは、時間もコストもかかった割に大した効果も出なかった、システム導入の古い記憶が頭にこびりついているように感じる。今や自社にサーバー(と言っても分からない人は大きなパソコンと考えよう)を置く必要もなく、クラウド(インターネット上の)サービスを利用して、一括で投資(ゼロからシステムを作る開発費負担)をしなくても月額料金を払うだけで良くなっている現実を知るべきである。
 「そんなことは分かっているけれども、自社にはそれが分かる人材がいないから、仕方なく案外高い費用をシステム業者に支払っている」と思った経営者は、そのシステム業者にカモにされている可能性があるので気を付けよう。デジタル人材もいないから業者の言うことの正否が判断できず、言いなりになっているのかもしれない。今やノーコード(ノンプログラミング)ツールが出回っていて、プログラムを書いたりしなくても、自社に合わせたシステム運用ができるサービスもある。デジタル人材などいなくてもデジタル活用ができるのだ。
 ノーコードを使えば、自社でシステムの開発、改良が出来るから、対応スピードは格段に速くなるし、コストも安く抑えられる。ゼロからプログラミングして作った方が完成度は高くなるが、どうしても時間もコストもかかってしまう。そんなことなら拙速を尊ぶノーコードを選択すべきなのだ。それが孫子の教えだ。

<作 戦 篇>
 『兵は拙速を聞くも、未だ巧久なるを賭ざるなり。』
◆現代語訳
 「戦争には多少拙い点があったとしても速やかに事を進めたという成功事例はあるが、完璧を期して長引かせてしまったという成功事例はない。」
◆孫子DX解釈
⇒完璧を目指して考えてばかりいるよりも、まずやってみる、ノーコードで試してみることが重要。

 DXを進める時に必要なことは、外部に依存せず、自社で試行錯誤が繰り返せるようになることである。デジタルという武器を手に入れるだけでなく、その武器を使いこなすことが重要だからだ。デジタルを使いこなすには、プログラミングが出来るデジタル人材が必要だ、となるのだが、そんな人材はいないし、リスキリングで育てようと思ってもハードルが高い。万が一、リスキリングに成功したり、元々パソコンオタクみたいな社員がいて、やらせてみたら凄かったということがあったとしたら、その人はDXブームに乗って他社へ転職して行くだろう。
 だから、デジタル人材がいない中小企業はノーコーダーを育てるべきなのだ。ノーコードツールであれば、デジタルに詳しくなくてもちょっと勉強すれば使えるようになる。そもそも素人でも使えるように作られているのだから・・・。そして、非デジタル人材向けのマニュアルや動画教材などが準備されていることが多い。
 ちょっとITに詳しいといった程度のシステム担当者よりも、実務に詳しく自社のことを本気で良くしたいと考えてくれる人材をノーコーダーとして育てるべきである。そもそもDXを進めるには、デジタルの知識や技術だけでは不十分である。いくらプログラムが書けても、業務をどう変えるか、その業務がどうあるべきかを考え、他の社員を巻き込んで業務改革を進めて行けるかどうかは別問題だからだ。
 ちょっとITに詳しいからと、アナログ社員を下に見て、「うちの社員はリテラシーが低いから」などと批評家のような発言をする中途半端なデジタル人材など害悪ですらある。それよりもノーコーダーがいい。ノーコードでるが故の制約はあったとしてもノーコードで素早く、コストをかけずにアジャイル開発できる方がいい。
 デジタル人材がいない中小企業のDXは拙速を尊ぶ。

孫子×DX DXの成果を実感させよ

2024-02-26

 DXは企業の存亡を左右する分岐点であり、避けて通ることはできない。しかし、デジタル人材もいない中小企業がDXに取り組む際には、経営者をはじめ、社員全員がデジタル活用に対して半信半疑であり、「うちの会社でDXなんてできるのか?」と不安に思っているものである。
そこで、孫子「作戦篇」に入る。
<作 戦 篇>
 『其の戦いを用うるや、勝つことを貴ぶ。久しければ則ち兵を鈍らせ鋭を挫く。城を攻むれば則ち力屈き、久しく師を暴さば、則ち国用足らず。』
◆現代語訳
 「戦争を遂行する際の一番の目的は勝つことであり、戦争を長期化させてしまうと軍を疲弊させ鋭気を挫くことになる。敵の本拠である城塞を攻めるようなことになれば、戦力を消耗させてしまうことになるし、長期間の戦争行動は国家財政の破綻を招くものとなる。」
◆孫子DX解釈
⇒ただデジタル化、ペーパーレス化を進めれば良いのではない。自社の競争優位を高め、勝たなければならない。長期プロジェクトでコストを浪費するのではなくまずは短期決戦でコストを抑え成果を上げよ。

 DXは、「製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」だから、単発のシステム導入やクラウド活用で、一朝一夕に実現するものではない。競争優位を確立するのはもちろん、企業文化や風土まで変えようと言うのだから、3年や5年かかってもおかしくない、企業変革の取り組みである。
 だがそれは、始皇帝が中華統一したり、信長、秀吉、家康とバトンリレーして江戸幕藩体制ができたり、といった一連のプロセス全体を捉えたものだと考えるべきだろう。プロセス全体を見れば、当然長期戦になるけれども、そこに至るまでに桶狭間があり、長篠があり、中国大返しからの天王山があり、関ケ原があったように、いくつかの戦いを積み重ねることになる。ここで孫子は、長期戦にしてはいけないと説く。
 DXに取り組む緒戦は、小さくてもいいので成功(勝ち)を社員に実感させるようにすべきである。DXという未だ全体像がつかめない、どうなるか分からない大目標だけを掲げて取り組んでいては、いつまで経っても戦いが終わらないことになリ、現場ではいつまで戦えばいいのかと厭戦ムードも高まって来る。
 まず、社員の多くが「DX、いいじゃないか」「なかなか便利じゃないか」「案外楽ちんになるな」と実感できるように小さな成功を目指すべし。織田軍が桶狭間の戦いで勝利して勢いづいたように。
 緒戦で勝利するために大切なことは、全員にIDを付与することである。全国民にマイナンバーを割り振るように、社員全員に識別情報を持たせる。全員がIDを持っているから社内業務をデジタルで処理できる。ここをケチって、IDを使い回しさせたりするから、デジタル化の効果が半減して業務効率も大して上がらない。
 高速道路のETCを考えてみれば誰しも納得するはずだ。すべてのクルマがETCを着けていれば有人の料金所は必要なくなる。すでに非ETC車は全体の7%以下である。たった7%のアナログ処理のために、レーンを分け、人を置いているわけだ。これと同様のことが社内で起こると考えれば良い。
 そして、「分散入力・即時処理」の仕組みにする。今やスマホも安価になって、ビジネスの現場にいるほとんどの人が持っているのだから、情報の入力を現場の個々人にやってもらう。その途端に処理は完了。これがデジタルの力だ。
 しかし、多くの中小企業が、システムを導入しても、特定の人や部署にアナログデータを一旦集めてから一括入力させているので、処理に時間もかかり、入力担当部署に負担がかかって、デジタル化の恩恵が得にくい。データをExcelやメールで送ったりするのでデジタル化しているような気分になっている人が多いが、やっていることはアナログだ。これは紙での処理プロセスをそのまま残しながらデジタル化しようとするから起こる。そうではなく、デジタルを前提にして、これまでの処理プロセスを見直すことが肝心だ。
 IDを全員に付与して、「分散入力・即時処理」ができたら、社内に「処理が速くなった」「案外簡単だね」「決裁が速くなって助かる」と言った実感が広がる。これで満足してはいけないが、小成功だ。
 そこに加えて、これまで郵送していたものをデジタル配信に変えてみるのも効果が実感できる取り組みだ。どこの会社でもあるのが請求書の配信。請求書を郵送するためには、郵便料金や封筒などの費用がかかり、三つ折りにして封入するなどの作業も必要となる。郵便料金も上がっているから一通あたり120円から150円くらいにはなるだろう。それをWEB配信にすると、件数にもよるがコストはおよそ半分から1/3にできる。もちろん人の手間も減り、さらには出社する必要性も減るから、テレワークなどにも対応できるようになる。もちろん、請求書を受け取る顧客側も出社せずに処理が可能となる。
 これで目に見えてコストも下がるから、社内には、「DX、いいね」「コストがかかるのではなくコストが下がるなら文句はない」と言った声が広がるだろう。これがDXだとは言えないが、小成功だ。天下は獲っていないが桶狭間での勝利で士気が高まった状態だ。
 こうして、小さな勝利を積み重ねることが天下を獲る(DX)のためには必要だ。小さな成功で、社内をその気にさせよう。

孫子×DX DXとは詭道なり

2024-02-17

 DXに取り組んでみよう、進めて行こうと思った時に、多くの企業は「あるべき論の壁」「常識の壁」にぶち当たる。特に、デジタル人材もいない中小企業は、世の多くのDX論、DX本、DXコンサルタントの説く、画餅のような空理空論にやられてしまうことになる。
 DXの壁とは、IT系のコンサルタントやシステム事業者(要するに、DXの専門家を名乗っている人たち)が説く、DX成功のためにはこれが必要だと言う3つの条件を真に受け、信じてしまうことである。
 DX専門家曰く、DXを成功に導くためには、
1.経営者のコミットメント(決断と積極的関与)
2.経営者が示すデジタル活用した将来ビジョン
3.デジタル人材(DX推進リーダー)の確保
が必要だそうだ。それができたら苦労しないよ、という話である。こんなことが条件だと言われたら、大企業でもほとんどがチーン!となってお終いだ。
 そうしてガッカリさせておいて、「だからこそ弊社がお手伝いするのです」「私どものコンサルタントが支援します」「何でしたらデジタル人材の派遣も出来ます」と売り込む。そのために、敢えて出来もしないことを言っているのではないかと思う。たぶん。。。そうとしか思えないほど、絵空事だ。
 まず、1の経営者のコミットメントについては、そもそも経営者がDXに取り組もうと意思決定しないと事は進まないので、一応決断はするかもしれないが、まだ自社のDXによって何がどうなるかも分からないのだから半信半疑に決まっているし、積極的に関与することが余計な口出しになったら、却って邪魔ですらあったりもする。
 そして、2だが、経営者がデジタルに詳しくなく(普通はそうだ)、DXの成果にも半信半疑な状態で、デジタル活用した将来ビジョンなど描けるはずがない。まだ分からないのだ。そんなに簡単にビジョンが描けるようなら、他社も同じようなことをやって、結局大したことにはならない。この辺りは、コンサル会社が事例を持って来て「お任せください」とか言いそうな部分だ。事例の真似をするだけだから横並びにしかならない。
 最後に決定的なのが、3のデジタル人材の確保。既に、IT業界やコンサル業界のせいでデジタル人材は引く手あまたになっており、一般の会社にそう簡単にデジタル人材が来るわけがない。ましてや中小企業であれば、可能性はほぼゼロで、もし仮にまかり間違ってデジタル人材が入社したとしても、「ITに詳しい便利屋さん」扱いされて、PCセッティングなどの雑用をさせられ、まともなデジタル人材なら、幻滅して辞めて行くだろう。何しろ自身のデジタル技術を発揮する出番がないのだから。
 この3つの条件は、大企業でもクリアするのが難しいし、日本企業の99.7%を占める中小企業ではほぼ不可能だ。だからこんなことが書いてある本を読んだり、セミナーを聞いたりしたら「うちみたいな中小には無理だな」「うちにはデジタルが分かる人材などいないから出来そうにない」と端から諦めてしまうことになる。
 こんな空理空論を真に受けて、「あるべき論の壁」「常識の壁」で意気消沈してはならない。こんなことは出来ていなくて当然であり、デジタル人材などいなくてもDXは進められる。ちょっとシステムに詳しいといった程度の中途半端なデジタル人材などいない方がマシなくらいだ。だから、デジタル人材がいない中小企業の人も、安心して「孫子×DX」の勉強をしてもらいたい。孫子の知恵でDXを実現すればいいのだ。
 孫子計篇にはこんな教えがある。
<計 篇>
 『兵とは詭道なり。故に、能なるも之に不能を示し、用いて之に用いざるを示す。』
◆現代語訳
 「戦争とは、相手を欺く行為である。したがって、戦闘能力があってもないように見せかけ、ある作戦を用いようとしている時には、その作戦を取らないように見せかける。」
◆孫子DX解釈
⇒自信がなくても自信があるように振る舞い、スキルが足りなくても十分なように見せかけよ。デジタル人材がいない中小企業のDXは一筋縄では成功しない詭道なり。

 何でも正攻法で行けばいいというものではないということ。常識とされているものを疑ってみることが重要なのだ。
 経営者は、DXの必要性さえ理解納得していれば、細かいことはよく分からなくても、とにかく「前に進め!」と号令すべし。半信半疑でもいいから、とにかく着手して、試行錯誤しながら自社のビジョンを描いていけば良い。DXだからと特別なことのように考えずに、普通に自社の将来像を描いてみれば良い。5年後10年後を考えれば自ずとデジタルの要素が入って来ることになる。時代の流れがそうなっているのだから。
 その時、社員に対して、自信がなくても自信があるように言っておこう。デジタル人材がいなくても大丈夫だと言い切ろう。社内にデジタル人材はいないのだから、社員もどうせ分かっていない。ここで大切なことは、カラ元気でもいいから将来への希望を示すことだ。
 敵を欺くにはまず味方からと言うではないか。DXを進めるためには、まず社内を良い意味で欺いて、前向きにさせること。デジタル人材もいない中小企業が、綺麗事の理想論を語っていても何の解決にもならない。
 「DXとは詭道なり」なのだ。

孫子×DX DXは企業経営の大事

2024-02-15

 孫子が「DXするべきだ」と言うはずだ、孫子の兵法がDXに応用できる、と断言している以上、孫子13篇の中からDXに使えそうな部分だけをピックアップして、「ほら、孫子がこう言っているでしょ」と都合のよい切り取りをしたのでは説得力がないだろう。
 情報(間諜)を扱う用間篇だけを取り上げて、「孫子は情報を重視していましたよ」と言えなくもないが、それは13篇中の1篇の話に過ぎないことになり、「孫子の兵法がDXに応用できる」とまでは言えない気がする。
 そこで、私(孫子兵法家)が都合よく孫子の使えそうな部分だけを取り出して、孫子の兵法の趣旨とは関係なくDXに応用できると言っているに過ぎないと思われてはいけないので、孫子13篇に沿って、DXの進め方を解説して行くことにしたい。
 もちろん、孫子全篇に渡ってDXに使える内容だけが書かれているわけではないので、孫子全文を取り上げることはしないが、計篇、作戦篇、謀攻篇、形篇、勢篇、虚実篇、軍争篇、九変篇、行軍篇、地形篇、九地篇、用間篇、火攻篇からなる13篇の順に従って解説する。そのため、DXの進め方としては多少順番が前後したり、重複することにもなるが、2500年も前の兵法を元にしているわけだし、そもそも孫子自体も篇の順番には議論があるところだから、そこはご容赦願いたい。都合よく孫子を切り貼りしたり入れ替えたりしていないということをご理解いただければと思う。
 それでは、計篇から始めて行こう。
<計 篇>
 『孫子曰く、兵は国の大事なり。死生の地、存亡の道、察せざる可からざるなり。』
◆現代語訳
 「戦争は、国家にとって重要な問題であり、避けて通ることはできない。国民にとっては、生きるか死ぬかが決まる所であり、国家にとっては、存続するか、滅亡させられるかの分かれ道である。徹底して研究すべきことであって、決して軽んじてはならない。」
◆孫子DX解釈
⇒DXは企業経営を左右する大事である。成長か衰退か、存続か消滅かを分ける分岐点なのだ。徹底して研究すべきことであって、決して軽んじてはならない。

 孫子の第一篇、計篇の冒頭で、孫子は戦争が国の存亡を左右する重大テーマであると宣言した。今、まさに企業が生き残るか消滅するか、死生、存亡の分かれ道となるのが、デジタル化への対応だ。なぜなら、人口減少が今後ずっと続いて行くことがほぼ確実だから。少なくとも日本では、今社会人として仕事をしている人が生きている間に人口増に転じることはないだろう。
 人口減少となれば、働き手だけでなく、顧客も減る。システム化、デジタル化、機械化、自動化し、無人もしくは少人数で仕事が回る体制にして生産性を上げなければならない。それがDXだ。デジタル活用を飛び越えて、AI化、ロボット化も進めていくべきだろう。今現在、目の前にある仕事は人手によるアナログ処理で回っていても、5年後、10年後、20年後を考えれば、今、デジタル活用に舵を切って手を打っておかなければどういう結末になるか、自ずと答えは出るはずだ。これは経営の一大事である。
 その分岐を、DXと呼ぼうと何と呼ぼうと名前はどうでもいい。今はたまたまDXという言葉が広まっているだけだ。名称がどうであれ、真剣に取り組むべき重要課題であることは間違いない。
 経済産業省のDXの定義「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」を見ても、「データとデジタル技術を活用して」の部分をカットすれば、企業が存続するための当り前のことしか書かれていない。人手も足りなくなるのだから、データとデジタル技術を活用して何とかするしかないのだ。
 「DXは企業経営を左右する大事である。」まずこのことを肚落ちさせてから、先に進もう。

孫子×DX 孫子の要諦とは

2024-02-05

 孫子は、紀元前500年、中国春秋時代に呉の闔閭に仕えた兵法家、孫武によって著された最古にして最高の兵法書と言われる。2500年もの間、洋の東西を問わず、軍事だけでなく組織運営や企業経営においても指南書・参考書として読み継がれ、評価され続けて来たわけだから、時代を超えた珠玉の教えであることは間違いない。
 そんな珠玉の智恵を活用しない手はないだろう。
 しかし、ただ古典として現代語訳を読んで分かった気になるだけでは意味がない。それを応用し、実践に活かしてこそ価値がある。孫子兵法家である私の役割は、孫子兵法を企業経営に応用し、多くの人に分かりやすく紹介することだ。今回は、「孫子×DX」というテーマで、DXに活かす方法をお伝えする。DXは企業経営の一部だから、当然孫子兵法家の範疇に入るわけだ。敢えてDXに活かそうと考えるのには訳がある。それは孫子の要諦は何なのかを考えれば自ずと行き着くものである。
孫子13篇をどう読み解き、どういう視点でその要諦を引き出そうとするかによって、違うポイントを抽出することもできるのだが、私が孫子兵法家として、孫子の要諦を3つ挙げるとこうなる。

<戦わずして勝つ>
『百戦百勝は、善の善なる者に非るなり。戦わずして人の兵を屈するは、善の善なる者なり。』
 孫子の神髄と言っても良いのが、兵法なのに、戦わないことを勧めている点だ。戦争がなければ、兵法家の出番もないのに、戦わずに国益を得ることを第一に考えた。そういう意味では兵法というよりも帝王学に近いと言えるだろう。国を保全し、兵や国民を保持することを最優先させている。
 そして次に、

<勝てる戦いしかしない>
『未だ戦わずして廟算するに、勝つ者は算を得ること多きなり。算多きは勝ち、算少なきは勝たず。』
『彼を知り己を知らば、百戦殆うからず。』
 戦いを避けようとしていても、どうしても戦わなければならない事態となることもある。その場合であっても、勝てる戦しかしない。戦う前に勝敗を予想し、勝てる道筋が描けてはじめて戦いを始める。敵味方の兵力差を把握し、勝ち目がないと分かったら逃げる。もしくは近づかない。だから「百戦殆うからず」となる。「百戦百勝」ではないのだ。
 だからこそ3つ目に、

<そのためには情報が必要>
『惟だ明主・賢将のみ、能く上智を以て間者と為して、必ず大功を成す。此れ兵の要にして、三軍の恃みて動く所なり。』
 戦って勝つには兵力、戦力が重要となるが、事前に戦わないようにし、戦うにしても勝てる時しか戦わないためには、それを判断するための情報が必要となる。そういう意味では、この3つの要諦は一体となっていて孫子の根底にある基本の考え方であるとも言える。
孫子は情報を重視した。だから13篇の中に「用間篇」という間諜のための篇を設けた。間諜とはスパイのことだが、これは現代に置き換えれば情報のことだ。紀元前には、情報は間諜がもたらすものだった。間諜をどう使うかが情報戦略だったわけだ。群雄割拠の戦国時代において戦わずに勝つためには各国がどういう状況でその国王が何を考えているのかを知る情報力が必要だった。勝てる戦しかしないためには、敵の兵力や陣形、将軍の力量などを事前につかむ情報力が必要だった。その情報力、すなわち間諜力があってこそ、孫子の兵法は成り立つ。これが孫子の要諦である。
 それを現代の企業経営に応用すれば、DXが必須であり、急務であることが分かるだろう。孫子が今いれば、必ず「DXを急ぐように」、「情報力を強化するように」と、企業経営者に進言するはずである。それが「孫子×DX」である。
 次回はいよいよ、「計篇」に入る。

孫子×DX 孫子兵法でDX

2024-02-01

 今年もまた言い訳から入らなければならない。一年前に、改正電帳法のために全兵力を投入したのに2年間の宥恕措置で戦意喪失して、ブログの更新ができなかったと言い訳した。それ以降、このブログを更新していなかった。今度は、インボイスと電帳法のダブル駆け込み需要で忙しくなったからだ。つくづく人間は追い込まれないと動かないものだなと思う。自分もそうだ。反省だ。
 だが、孫子兵法家たる者、そんなことではいけない。孫子兵法を現代の企業経営に活かすのが孫子兵法家の使命であり役割だから、心を入れ替え、気合を入れ直してブログを書くことにする。たぶん。。。。
 テーマは「孫子×DX」。孫子の兵法でDX(デジタルトランスフォーメーション)を成功に導く。2500年も前に書かれた孫子に21世紀のデジタル活用の方法など書かれているわけがないと思うだろうが、それは違う。そんなことを言ったら、企業経営のことも一切書かれていない。孫子に書かれているかどうかではなく、孫子兵法家は、孫子(孫武)の心となり、脳となり、現代に孫子が蘇ったとしたら何と言うか、どういうアドバイスをするかを代弁する。まるでイタコのような存在である。
 今ここ、2024年に孫子がいたら、間違いなく、企業経営者にDXを急ぐように言うだろう。なぜなら「情報が戦争の要」だから。もちろん、情報を扱う道具はまるで違う。孫子の時代には、鉦、太鼓、幟、狼煙、そして間諜を使った。現代は、PC、スマホ、データベース、センサー、インターネット、AI等々、多くの道具が使える。道具は違うが、やることは同じ。「彼を知り、己を知る」「人に取りて敵の情を知る」そして「明主・賢将のみ、能く上智を以て間者と為して、必ず大功を成す」わけだ。
 人口減少が加速し、生産性の低さを指摘され続けている日本企業にはDXが不可欠である。だが、その進捗が極めて遅い。私はそれをインボイスと電帳法への対応で嫌というほど実感した。どう考えてもシステムで処理すべきなのに、「紙でやる」「一件ずつコツコツ保存する」「税務調査で突っ込まれなければ大丈夫だから何もしない」とアナログ処理のまま頑として動こうとしない多くの企業やその経営者を見て来た。法改正があってもやらないくらいだから、そういう企業は淘汰されるしかないだろうが、何とか頑張ってシステム化しようとしてもDXには程遠いという企業が少なくない。
 そこで、孫子の出番である。「孫子×DX」である。孫子の兵法に基づいてDXを進めていけば、必ずうまく行く。DXを単なる流行だと考えてはいけない。DXという言葉自体は流行語であり、バズワードだろうが、中身は時代を超えてやるべき重要なことだ。だから孫子の兵法が適用できる。時代を超えて生き残っている孫子が活用、応用できるのだ。
 それを解説して行こうと思う。今回はまずその宣言である。次回以降に乞うご期待。

世の流れをつかみ流れに逆らうな

2023-01-31

 久しぶりの投稿である。昨年は戦意を喪失し、孫子兵法の出番も減ってしまったからだ。孫子兵法家がそんなことではいけない・・・と思い直して、今、このブログを書いている。
なぜ戦意を喪失してしまったのか。それは、2022年1月から施行される改正電帳法のために全兵力を投入して電帳法対応の武器を強化したのに、2021年の年末ギリギリになって宥恕措置なるものが発動され、2年間の先送りとなったからだ。
2021年はほぼ丸一年、電帳法対応に我が社の開発力を投入した。本来経理業務は我が社のコンサルティングの範疇ではないし、会計システムを売りたいわけでもないのだから電帳法がどうなろうと無視していても良かった。だが、あまりにも多くの企業が電帳法の改正内容を理解していないし、準備などまったくと言って良いほどできていなかった。「こんな状況で大丈夫なのか」「多くの企業が困ってしまうのではないか」と真面目に心配したのがいけなかった。
 ついつい、NI Collabo 360の経費精算機能支払管理機能を大幅バージョンアップして電帳法の要件に対応させ、電子保存のための電帳法ストレージというオプションも用意した。法対応の要件が不明瞭だったから、国税庁に何度も問い合わせ、確認しながら、急ピッチで開発を進めたわけだ。特に秋頃からは残り時間が少なくなって、社員にも無理をさせてしまった。月額360円(税込)のNI Collabo 360に、標準機能で電帳法対応させるのに、だ。さすがにストレージが別途必要になるのでオプションはつけたが、基本機能は360円に込み込みである。頑張って機能強化しても、単価が上がるわけでもない。それでも、このままでは2022年1月施行に多くの企業が間に合わないという使命感と危機感で大急ぎで開発を進めたわけだ。啓蒙のためのセミナーもやった。毎回満員御礼だった。この時点でもまだ電帳法についての理解ができていない企業が多かったからだろう。
 だが、12月も10日ごろになり、年内残りわずかとなった時点で、政府税制調査会の税制改正大綱が出て2年間先送り・・・・・・・・・・・・・。国税庁様のご意向に沿って頑張って来たことは水の泡と消えた。
 案の定、年が明け2022年になったら、多くの企業は「2年間の猶予があるんだからまだやらなくていいでしょ」というモードに入ってしまった。世のため人のために良かれと思って、必死に頑張ったのに水の泡。これでやる気を維持しろという方が無理な話だ。ということで、戦意喪失。もう好きにしてくれ状態。そうして2022年が過ぎようとしていた昨年12月。また税制改正大綱が出て、さらに電帳法の要件変更あり。ついでにインボイス制度も要件緩和。
 毎年毎年、ギリギリになって言うことが変わるのだ。会計系のシステムなどを作っている企業の皆さんに敬意を表したい。「よくやっていますね」と。まぁ彼らは慣れたもので、どうせ変更があるだろうと思ってやっているのかな。。。。孫子兵法家が真面目に考え過ぎていたのがいけなかったのだろう。地を知り、天を知ることができていなかったと大いに反省した。
 孫子は、

『彼を知り己を知らば、勝、乃ち殆うからず。地を知り天を知らば、勝、乃ち全うす可しと。』

 敵の状況や動きを知り、自軍の実態を把握していれば、勝利に揺るぎがない。その上に、地理や地形、土地の風土などの影響を知り、天界の運行や気象条件が軍事に与える影響を知っていれば、勝利を完全なものにできる、と教えてくれていたのに。
 他の電帳法対応システムと自社との比較にばかり気を取られ、「これなら絶対に勝てる」と思っていたのだが、それだけでは万全ではなかった。税法、税制という土地をよく理解していなかった。政府税調がこんなギリギリに大幅な変更をするなんて知らなかった。国税庁が言っていることをころころ変えることを知らなかった。そして、世の流れも読み切れていなかった。多くの人や企業は、「こんなギリギリになって変更するとは何事か、これまで準備して来たことが無駄になるじゃないか」と怒るのではなく、「先延ばしにしてくれてありがとう。まだ準備してなかったからね」と喜んでいた・・・。政府与党が頑張って国民の皆さんをお救いしましたよ~、ギリギリの攻防だったから年末ギリギリになったけどね~、ということだろう。必死に頑張って期限に間に合わせようとして馬鹿を見た。
 さて、そうしたことで迎えた2023年は、10月にインボイス制度がスタートし、12月末で電帳法の宥恕措置が終了する。いよいよなのか、またギリギリで肩透かしを食らうのか、よく分からないが、世の流れをつかみその流れに逆らわないようにしたいと思う。
 私は、インボイスがあろうとなかろうと、電帳法がどうなろうと、企業のデジタル化は進めるべきであり、その前提としてペーパーレス化は必須だと考えているので、NI Collabo 360はインボイス制度にも対応させたし、AI-OCR機能も強化した。これはデジタル化、DXという世の流れである。税金や国税庁のために経営をするのではなく、自社の生産性を上げ、より多くの価値を社会に提供するために経営をしようではないか。そのために孫子兵法家も頑張っていく所存である。

敵を侮ってはならない

2022-08-16

 ビジネスでも戦争でも同じだろうが、つい自社びいき、自国びいきで、「うちの会社があんな会社に負けるわけがない」「我が国があの国に負けるはずがない」などと過信と勢いで敵を軽く見がちなことがある。その方が威勢が良く、味方を鼓舞するには適当であったりもする。リーダーが戦う前から「いや、敵は強いぞ、こちらは負けそうだぞ」と部下に言っているようでは、わざわざ戦意喪失させるようなものだ。
 また、実際に自社の方が強くて大きいというケースもある。売上も社員数もこちらが優位だとなったら、それこそ「あんな会社に負けるはずがない」と考えておかしくないだろう。だが、孫子は、それでも決して敵を侮ってはならないと説いている。

『兵は多きを益ありとするに非ざるなり。惟だ武進すること無く、力を併せて敵を料らば、以て人を取るに足らんのみ。夫れ惟だ慮り無くして敵を易る者は、必ず人に擒にせらる。』

 孫子は、戦争においては、兵員が多ければ良いというものではないと断言している。彼我の戦力比較をシビアに行い、勝てない戦はしてはならないというのが孫子の基本であるが、ここでは兵力が勝っていればいいというものではないと説いているのだ。兵力を過信して猛進するようなことをしないのは当然だが、戦力を集中させ、敵情を読んで戦えば、仮に兵力が小さくても敵を屈服させるに充分であると言うのだ。そして、そもそも彼我の戦力分析もせずよく考えもしないで敵を侮り軽はずみに動くようでは、敵の捕虜にされるのが落ちであると念押しもしている。
 敵に対して怖気づいたり、とても勝てそうにないからと戦うことを諦めてしまうようなことでは、国王、将軍、リーダーは務まらないが、虚勢を張らず、常に謙虚に客観的な兵力分析を行い、戦略を練って、ここぞというところに戦力を集中させて戦えば、より強大な敵にも勝てるというのだから、弱小企業にも希望がある。
 「あんな会社、大したことないな」と高を括っていた新興企業が、あれよあれよという間に自社を追い越して成長して行ったということはないだろうか。私はある(笑)。孫子兵法家なのに、ある・・・。という反省を込めて、改めてこの節をお伝えしておく。孫子兵法、行軍篇の一節である。
 決して、敵を侮らないようにしよう。

情報やデータを活かさないのは不仁

2022-02-01

 新型コロナウイルスによるパンデミックが起こってからもう丸2年が過ぎているのに、相変わらず、人流抑制、外出自粛、接触回避を唱え、飲食店の営業を制限し続けているのは、いかがなものかと思う。このブログでもコロナ禍について何度か取り上げて来たが、最初は未知のウイルスが出現して、とりあえず接触を避ける、経済を止めてでも感染拡大を防ぐという対応も仕方なかっただろう。しかし、この2年間、世界中で知見が溜まり、治験が進み、データが集まり、症例が報告されて来たはずだ。「これさえ打てば日常に戻れる」と太鼓判を押していたワクチン接種も進んだではないか。感染拡大の波もすでに第6波だ。ウイルスは変異によって感染力が上がっても弱毒化していることは明らかだし、過去5回の波からいろいろと学んだこともあるだろう。
 にもかかわらず、結局やっているのは、営業自粛、テレワーク推奨、県外への移動制限・・・。そして、それに伴う巨額の補償。毎度、同じことの繰り返し・・・。
 国民を守るためにと言いながら、経済活動にダメージを与えつつ、膨大な支出を続けて、本当に国民のためになるのだろうか。甚だ疑問である。
 孫子は、戦争における膨大な出費と国民の疲弊に対してリーダーがどう向き合うべきかを説いている。

『孫子曰く、凡そ師を興すこと十万、師を出だすこと千里なれば、百姓の費、公家の奉、日に千金を費やし、内外騒動して、道路に怠れ、事を操るを得ざる者、七十万家。相守ること数年、以て一日の勝を争う。而るに爵禄百金を愛みて、敵の情を知らざる者は、不仁の至りなり。民の将に非ざるなり。主の佐に非ざるなり。勝の主に非ざるなり。』

 孫子が言うには、およそ10万の兵を集め、千里もの距離を遠征させるとなれば、民衆の出費や国による戦費は、一日にして千金をも費やすほどになり、官民挙げての騒ぎとなって、補給路の確保と使役に消耗し、農事に専念できない家が七十万戸にも達する。こうした中で数年にも及ぶ持久戦によって戦費を浪費しながら、勝敗を決する最後の一日に備えることがある。(数年にも及ぶ戦争準備が、たった一日の決戦によって成否を分ける)にもかかわらず、間諜に褒賞や地位を与えることを惜しんで、敵の動きをつかもうとしない者は、兵士や人民に対する思いやりに欠けており、リーダー失格だと言うのだ。そんなことではとても人民を率いる将軍とは言えず、君主の補佐役とも言えず、勝利の主体者ともなり得ないぞ、と。
 ここで大切なことは、数年に及ぶ緊急事態による国民の苦労と多大な出費を止めるためには、情報やデータが必要だということだ。そのために間諜を使う。今のコロナ禍においては感染症の専門家や厚労省だと考えれば良いだろう。だが、この専門家が機能していない。2年間の知見が活かされていない。仮に専門家が正しい提言をしているなら、それを活かさないのはやはりリーダーの責任だ。適切な専門家を使い、正しい判断をしなければならない。それが出来なければ、国民や現場で戦う兵士に多大な犠牲を強いることになる。まさに今のコロナ禍だ。
 そんなことが2500年前にもあったのだろう。孫子は続けてこう言った。

『故に明主・賢将の動きて人に勝ち、成功の衆に出づる所以の者は先知なり。先知なる者は、鬼神に取る可からず。事に象る可からず。度に験す可からず。必ず人に取りて敵の情を知る者なり。』

 優れたリーダーが勝利を収めるのは、如何に早く正確な情報を掴むかという「先知」ができているからだと。それは、鬼神に頼ったりして実現できるものではなく、祈祷や過去の経験で知ることができるものでもなく、天体の動きや自然の法則によってつかむわけでもない。必ず人間が直接動いて情報をつかむことによってのみ獲得できるものだと、孫子は教えてくれている。
 祈ったり、お願いしたり、現場の頑張りや国民の忍耐に頼るのではなく、プロを使って、正しい情報やデータを掴むべきである。リーダーは、それを活かして合理的に判断すべきなのであって、過去の踏襲や選挙のための人気取りや世間の空気に流されるようでは、結局そのツケを国民に払わせることになる。国民に対する「不仁の至り」である。
 そんなことは分かった上で、裏に狙いや陰謀があって敢えてやっているのかもしれないが、それはそれでまた「不仁の至り」だろう。データに基づかない情緒的な判断や人の恐怖心に訴える煽り誘導は、そろそろ終わりにしていただきたい。

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