孫子の兵法

仕事で大切なことは孫子の兵法がぜんぶ教えてくれる
小さな会社こそが勝ち続ける 孫子の兵法経営戦
これなら勝てる!必勝の営業術55のポイント
マンガでわかる!孫子式 戦略思考
まんがで身につく孫子の兵法
キングダム』で学ぶ乱世のリーダーシップ
「孫子の兵法」で勝つ仕事えらび!!
孫子×DX 中小企業ならではのDX

2024-04-01

 戦略を考える時に注意が必要なのは、大企業、グローバル企業などの成功事例に引き摺られないことだ。一般に紹介されている成功事例は、ほとんどが大企業の事例である。何しろ「成功」事例だから。中小企業の事例では、どうしても「成功」した感が弱いし、認知度も低いから事業の内容もイメージがしにくい。そこでどうしても事例としては一般に知名度がある大企業の事例を使うことになる。前回紹介したQBハウスも、大きくなって認知度が上がっているから事例にしたわけで、誰も知らない特殊な(差別化され戦いを避けている)企業を例に挙げても、「その企業は本当に成功しているのか?」「そんな会社、本当にあるのか?」と疑われることになる。
 DXにおいても、成功事例は大企業がほとんどだ。それも海外、特に米国企業の事例が多い。そして、「日本企業はダメだ」「中小企業は遅れている」「海外を見習え」と日本と中小をディスる。自虐的な日本企業はそういうのが好きなのだろうし、危機感を煽って行動させるためには巨大な敵が迫っていると言った方が効果があるということだろう。
 だが、兵力の大小、規模の大小、経営資源の大小によって戦い方が変わることを忘れてはならない。当然、孫子もそのことを指摘している。

<謀 攻 篇>
 『用兵の法は、十なれば則ち之を囲む。五なれば則ち之を攻む。倍すれば則ち之を分かつ。敵すれば則ち能く之と戦う。少なければ則ち能く之を逃る。若かざれば則ち能く之を避く。故に、小敵の堅なるは大敵の擒なり。』
◆現代語訳
 「軍隊を運用する時の原理原則として、自軍が敵の10倍の戦力であれば、敵を包囲すべきである。5倍の戦力であれば、敵軍を攻撃せよ。敵の2倍の戦力であれば、相手を分断すべきである。自軍と敵軍の兵力が互角であれば必死に戦うが、自軍の兵力の方が少なければ、退却する。敵の兵力にまったく及ばないようであれば、敵との衝突を回避しなければならない。だから、小兵力しかないのに、無理をして大兵力に戦闘をしかけるようなことをすれば、敵の餌食となるだけのこととなるのだ。 」
◆孫子DX解釈
⇒デジタル人材もいない中小企業が、「プラットフォーマー」や「ゲームチェンジャー」となってIT巨人と戦おうとしてはならない。

 資本力や人的リソースが大きく劣っていることを忘れて、大企業と同じような戦略で戦おうとしてはならない。成功事例を参考にするのは良いが、そのまま中小企業に置き換えてもうまく行かないことの方が多い。特に、DXの事例でよく出て来る巨大IT企業の事例に踊らされないことが重要だ。多くのDX本には、GAFAMと呼ばれる巨大企業の事例や「プラットフォーマー」「ゲームチェンジャー」といった言葉が並んでいる。中小企業が「山椒は小粒でもぴりりと辛いのだ」と精神論でそんなことを真似しようと思っていては、「小敵の堅なるは大敵の擒なり」で終わり。仮に一時はうまく行っているように思えても、うまく行けば行くほど、成功すればするほど敵に見つかって「十なれば則ち之を囲む」包囲作戦でやられて終わり。これまでMicrosoftに潰されたり吸収されたりしたベンチャー企業がどれだけあったかを思い出してみれば分かるだろう。
 大企業やグローバル企業と正面切って戦ってはならない。避けたり逃げたりすれば良いのだ。その一つの道筋が「リアル・ヒューマン戦略」。DXでデジタル活用するのはもちろんだが、敢えて一部に生身の人間を介在させる。その分、効率は落ちるが、だからこそ大企業やIT巨人はやって来ない。ネット経由やロボットやAIでは再現できない生身の人間力(手触り・おもてなし)を顧客接点で活用するのだ。人を動かすとどうしてもコストが上がり、効率が落ちるので、その裏で自動化、標準化、デジタル化して徹底的にローコスト化を図る。そこに中小企業ならではのDXがある。
 一般のDX本に書かれた事例やDX専門家が語る「アメリカでは」「IT先進国では」「GAFAMでは」という「出羽守論法」に踊らされてはならない。中小企業には中小企業なりの戦い方があるのだ。DXも同じことである。

PAGE TOP