孫子の兵法

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ESGにも孫子の兵法を活かす

2020-02-04

 ESGという言葉はご存じだろうか。環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)の頭文字をとったもので、企業の持続的、長期的な成長のためには、従来の財務情報だけでなく、これらの観点でも企業を評価すべきであるとする考え方だ。持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)に続いて、このESGを取り上げ、孫子の兵法がSDGsだけでなく、ESGにも有効な教えであることを指摘しておきたい。
 ちなみに、このESGは株式投資の世界で良く使われる言葉である。ESG投資と言う。投資に際してその企業が地球環境や社会的責任について考えていて、企業統治が有効に機能し、地球環境保護や社会的責任を果たす具体的な行動がとられているかを評価するのだそうだ。素晴らしい考えであり、大いに結構なのだが・・・・。
 SDGsもそうだが、環境や社会の持続可能性に配慮していて、投資回収の最大化が図れるのか?疑問が残る。現在は、ESG投資のパフォーマンスが良いらしい。だがこれは、「これからはESG投資だ」「ESGの評価が高いところに投資する」「多くの機関投資家がESG投資するならESG銘柄が高騰するだろう」「であればESG投資だ」という「予言の自己成就」の結果に過ぎないのではないか。期待が期待を生み、株価が上がっている内は良いが、最後は企業業績がついて来るかどうかが問題となる。
 環境に配慮する企業であるとアピールするために、紙製ストローに切り替えたけれども、そもそも容器がプラスチック製のままだった・・・みたいなことをして、見た目だけ取り繕っていたのでは、ESGのスコアは上がっても業績は上がらないだろう。SDGsでも指摘したが、結局、地球のこと、環境のこと、社会のことを考えたら、個々の人や企業は抑制的にならなければならないだろうし、業績面やコスト面で節制が求められる。それが長期で見た時には持続性が高まることになって却ってリターンを大きくするのだと確信できるかどうか。現状の資本市場にそこまでのパラダイムシフトが起きているとはとても思えない。だが、地球環境や資源の問題が待ったなしであることもまた事実だろう。そこで孫子の兵法だ。
 環境(Environment)、社会(Social)については、SDGsとも被っているので、そちらを参考にしていただくとして、ここでは、ガバナンス(Governance)企業統治について考えてみたい。  そもそも、ガバナンスという言葉を持ち出したくらいだから、上場企業を対象としているものと思われるが、何のために上場審査をしているのかと言いたくなる。形をいくら整えても、いくら社外取締役を増やしても、監査委員会を設置しても、不正が起こる。日産のゴーンさんが有罪か無罪か、合法なのか非合法なのか知らないが、かなり勝手なことをしていたのは間違いないだろう。日産だけでなく三菱からもチェックされ、日産の上にはルノーがいて、さらにフランス政府が株主として目を光らせていても、それが出来てしまった。結果として日産のESGスコアは落ちただろうが、ゴーンさんが逮捕される前のスコアは高かったのでは?
 郵政グループ、かんぽ生命のガバナンスはどうだろう。民営化して上場もし、民間から経営者を招いて、総務省からの天下りもいて、牽制を効かせていたのではないのか。  東芝はどうだろう。日本に「委員会設置会社(現在の指名委員会等設置会社)」の制度が導入された2003年、真っ先に取り組んだのが東芝だ。「監視」と「執行」が分離され、ガバナンスの機能が高まるはずだったが、実際には社外取締役らの監視は機能せず、不正会計を見逃した・・・。
 日本企業だからダメなのだという指摘は当たらない。ルノー傘下の日産はフランス企業であり、ドイツのVWの排ガス不正など世界中で不正は起こっている。米国は言うまでもなし。形式的なガバナンスの評価など大して意味があるとは思えない。
 孫子は、

『善く兵を用うる者は、道を修めて法を保つ。故に能く勝敗の政を為す。』

 と言った。用兵に優れた者は、ものの道理、思想、考え方を踏まえて、進むべき道筋を示し、軍制やルール、評価・測定の基準を徹底させる。だからこそ、勝敗をコントロールし、勝利に導くことができるのだという教えだ。
 さらに、こうも言っている。

『令、素より行われ、以て其の民を教うれば、則ち民服す。令、素より行われず、以て其の民を教うれば、則ち民服せず。令の素より信なる者は、衆と相い得るなり。』

 軍令が、普段から徹底されており、軍律が確立されていれば、兵士は命令に従う。軍令が、普段から不徹底で、軍律が乱れていれば、命令に従うことはない。平生から軍令が徹底され、誠実にそれを守っている将軍であればこそ、兵士たちと上下の信頼関係を築くことができるのだという指摘だ。
 日産が、ガバナンスだコンプライアンスだといくら言っても、社員はトップにいるゴーンさんの平生の行いを見て、「何を言ってるんだ」と思っていたことだろう。
 要は、ガバナンスの基本は、上に立つ者の率先垂範であり、平生往生なのだ。要するに、当たり前のことであって、紀元前500年頃の孫子の時代から言われていることである。孫子の教えを経営者や幹部が学んで、実践すれば自ずとガバナンスは正されることになる。
 そして、この孫子の教えも忘れないようにしたい。

『主は怒りを以て師を興す可からず。将は慍りを以て戦いを致す可からず。利に合えば而ち動き、利に合わざれば而ち止む。怒りは復た喜ぶ可く、慍りは復た悦ぶ可きも、亡国は以て復た存す可からず、死者は以て復た生く可からず。故に明主は之を慎み、良将は之を警む。此れ国を安んじ軍を全うするの道なり。』

 君主は、一時の感情的な怒りによって戦争を起こしてはならない。将軍は、憤激に任せて戦闘に突入してはならない。国益に合っていれば、行動を起こし、利が無ければ思い止まるべきだ。
個人的な怒りの感情はやがて収まり、喜びの感情が湧くこともあるし、一時の憤激もまた静まって、愉快な気分になることもあるが、亡んだ国は立て直すことができず、死んだ者を生き返らせることもできない。だから聡明な君主は軽々しく戦争を起こさず慎重であり、優れた将軍は軽率な行動を戒めるのだ。これが国家を安泰にし、軍隊を保全する方法であるとの教えである。
 短期的な目先の利益や個人的な感情や利害で思い付きのようにビジネスをしてはならない。優秀な側近であれば、トップが暴走しようとしたら、それを諫めて止めさせろということだ。これが「国を安んじ軍を全うするの道」であり、持続可能性を高めることにつながる。
 ESGにも孫子の兵法を活かそう。

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