孫子の兵法

仕事で大切なことは孫子の兵法がぜんぶ教えてくれる
小さな会社こそが勝ち続ける 孫子の兵法経営戦
これなら勝てる!必勝の営業術55のポイント
マンガでわかる!孫子式 戦略思考
まんがで身につく孫子の兵法
キングダム』で学ぶ乱世のリーダーシップ
「孫子の兵法」で勝つ仕事えらび!!
営業マンは売り子ではなく間諜である

2019-08-02

 かんぽ生命の不適切販売が問題になっている。保険料の二重徴収や顧客に不利益を与える契約乗り換え、自分達の評価のために無保険期間を作ったりと、「不適切」という言葉で許して良いのかと疑問に思う。一部の営業担当者が歩合給欲しさに過剰なトークで「不適切」な受注をしてしまっていましたという話ではなく、過去5年間で18万件以上の「不適切」販売があったというのは、組織的犯罪、組織的詐欺行為と言えるのではないか。かんぽ生命には全部で3000万件の契約があると言うから、そのうちの18万件など取るに足らないと思っているのかどうか分からないが、18万件という数字は決して取るに足らない数ではないだろう。
 経営陣の謝罪会見もあったが、営業現場の実態を知らなかったのであれば経営者として稚拙であり、危機感が無さ過ぎるし、実態を知っていたのであれば日本郵政という組織の成り立ちから考えても極めて悪質である。きっと日本郵政やかんぽ生命には、そんな悪人はいないだろうと仮定すると、孫子兵法家としては、経営層の甘さと認識違いを指摘しておかなければならない。(ここで、郵便局の人に悪い人はいないと思わせてしまうところがこの組織の罪なところだろう・・・)

 日本郵政やかんぽ生命に関心があるわけでもないし、内部を調べたわけでもないので、報道されているような公開情報を元にするしかないが、まずこの人口減少と高齢化が急速に進んでいる日本国内をメイン市場としているのに、新規契約(売上増)の目標が高過ぎる。経営層がこの目標を本気で達成しようと考えているなら、すでに全国津々浦々まで営業していて3000万件の既存契約があった上で、大した新規性・独自性のない商品をさらに売り込んで行く具体的な方策、戦略・戦術がなければならない。それもないのに、ただ目標を設定して部門や個人にノルマとして押し付ければ気合と根性で達成してくれるだろうと考えていたとしたらあまりに楽観的過ぎる。
 そこまで考えのないことはやらないだろうとなると、具体的な方策があり、戦略・戦術が練られていたことになるが、もしそうであるならかなり難しいチャレンジをしなければならないだろうから、その仮説検証すなわち現場の実態をつかんで適時適切に対応策を練る必要があり、もっと営業現場(戦略実行の最前線)に関心を持つべきだっただろう。
 その際に大切なことは、営業担当者を単なる商品を売り込む「売り子」と考えるのではなく、戦略実行の最前線で敵(競合ならびに顧客)と接しながら最新の情報を収集して来てくれる「間諜」(諜報員)と考えるべきだと言うことだ。これは郵政、かんぽ生命に限らず、多くの企業の経営者が出来ていない点だが、営業担当者を号令をかけ、指示命令したら後は顧客を騙してでも、自腹を切ってでも、売って来る「売り子」だと考えていては、今回のかんぽ生命、一昔前の朝日ソーラーのような事態に陥る可能性がある。
 そうではなく、営業担当者は自社の戦略を実行する最前線にいる「間諜」なのだから、そこから正確な情報をタイムリーに受け取って、スピーディーに戦略修正をかけるべきだと考えなければならない。そんなことをかんぽ生命やゆうちょのような大組織の経営者が出来るわけないだろうと考えるのも間違いだ。今やITツールがあって、郵政グループも某社のSFAを入れているはずで、まともに使われていれば、現場の一商談までオフィスにいながらにして「見える化」出来るはずだ。
 孫子は、

『惟だ明主・賢将のみ、能く上智を以て間者と為して、必ず大功を成す。此れ兵の要にして、三軍の恃みて動く所なり。』

 と、用間篇で指摘している。「聡明な君主や優れた将軍だけが、智恵のある優秀な人物を間諜として用い、必ず偉大な功績を挙げることができる。この間諜の活用こそが戦争の要であり、全軍がそれを頼りに動く拠り所となるものである。」 と言うのだ。
 どれだけ兵力、戦力があろうと、それをどう動かすかを決定する時に必要なのは現場の正しい情報だ。それをもたらしてくれるのが間諜であり、だからこそ優秀な人材をそこに投入する。何しろ、その情報に基づいて全軍を動かすのだから。
 少なくとも日本国内は人口減少でマーケットは縮小している。余程新規性があって新たなマーケットを創出するような商品でもない限り、大きな新規売上、多くの新規開拓は見込めない。そこを何とかこじ開けて自社を成長させたいなら、緻密な戦略立案と木目細かい現場の情報収集によって仮説検証を繰り返す経営力が求められる。気合と根性の営業力で押し切ろうと考えるようでは経営者失格である。
 これで間違いなし!という戦略立案が難しい時代である以上、戦略は常に仮説に過ぎず検証と修正を繰り返すべきものであるという認識が企業経営者には求められる。その時に孫子兵法の間諜に相当する役割を果たすのが営業担当者であり接客する販売員である。間諜からの情報を大事にするのは孫子兵法の基本である。

PAGE TOP