孫子の兵法

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孫子×DX 新たな常識を作る

2024-06-05

 DXは、従来の業務を単にデジタル化、IT化するものではない。デジタルの力を使って、企業を変革(トランスフォーム)させ、新たなビジネスモデルを創出して行くことを目指したい。
 そのためには、従来の常識や業界の慣習に囚われていてはいけない。それらの常識や慣習を打ち破り、新たな常識(世の中)を作り出すことを目指そう。
 孫子は常識破りのことを「奇」と呼び、常識を「正」と呼んだ。そしてこの奇と正は循環しており、奇が正になり、正が奇になるのだと教えてくれている。

<勢 篇>
 『正を以て合い、奇を以て勝つ。故に、善く奇を出す者は窮まり無きこと天地の如く、竭きざること江河(河海)の如し。』
◆現代語訳
 「戦闘においては、正法によって相手と対峙し、奇法を用いて勝利を収めるものである。だから、奇法に通じた者の打つ手は天地のように無限であり、揚子江や黄河のように(大河や海のように)尽きることがない。」
◆孫子DX解釈
⇒業界の常識を打ち破る奇策をデジタルで実現せよ。奇策はやがて当たり前になり正攻法となる。するとかつての正攻法が奇策となり、奇正は環の端なきが如し。

 セブンイレブンが銀行を作ると言った時、ほとんどの人は「そんなことは無理だ」と言ったが、今やコンビニにATMがあるのは当り前になり、店舗すら持たないネット銀行まで現れている。
 ヤマト運輸が小口の荷物を翌日には届けると言った時、ほぼすべての人が「そんなことは無理だ」と言ったが、今や当日でも届くような配送サービスがある。
 セコムがガードマンを常駐させるのではなくセンサーを設置して何かあった時だけガードマンを急行させると言った時、多くの人は「そんなことは無理だ」と言ったが、今やセンサーによる警備が当たり前になっている。
 そして、これらを支えているのがデジタルの力である。当時はDXなどという言葉は無かったが、立派なDXだ。ここでの問題は、常識を打ち破ろうとしたら必ずそれに反対する人、異を唱える人が出て来るということであり、顧客もその新しいやり方、新しいビジネスモデルに戸惑う可能性があるということである。
 だからこそ、その奇策に意味があるのだ。誰もが賛成し、顧客がアンケートに書くようなことをやっていては奇策でも何でもない。競合他社も同じようなことをやって来るし、すでにやっているかもしれないような話なのだ。
 だが、やがてそれが新しい常識となる。その会社の成功を見て、ようやく他社が追随してくる。そうしてそれが当たり前になる。奇法が正法に変わるわけだ。そうなるとまたその新常識を打ち破る奇法が出て来る。そのためにもやはり、デジタルが必要になる。
デジタルを活用することで限界費用を抑え、試行錯誤しやすいようにする。ビジネスモデルを支えるためにもデジタルを使う。そしてさらにそのビジネスモデルがうまく回っているか、さらに改善、改良する点はないかをモニタリングするためにもデジタルを使う。他社が後追いして来ても、さらに先を行くスピードが重要だからだ。
 もっと言えば、一番強力な競合対策は、自らが自社のビジネスモデルを破壊する新たな常識を打ち出すことである。自社を陳腐化させるのだ。
 その時々の常識は常に一定のものではない。その時に最高だと思われるビジネスモデルも時の経過と共に陳腐化する。それをデジタルでモニタリングし、臨機応変に変更、改変して、さらにはまた新たな常識を作るのだ。
 こんなことはデジタルの力を使わなければ到底できないだろう。
念のために触れておくと、孫子の兵法をDXに用いる以上、デジタルを使えば良いと単純に考えてはならない。アナログな業務や処理がデジタルに置き換えられ、デジタルが当たり前になったら、敢えてそこでアナログに戻してみる、アナログな味つけをしてみるようなことも考えるべきである。デジタルは手段であって、奇と正は循環しているということを忘れてはならない。

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