孫子の兵法

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SDGsにも孫子の兵法を活かす

2020-01-28

 持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)略称SDGs(エスディージーズ)はご存じだろうか。派手なバッジをつけている人も増えて来たので、ご存じな方も多いだろう。2015年9月の国連総会で採択された「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」で示された、持続可能な開発のための17のグローバル目標と169のターゲット(達成基準)からなる国連の開発目標である。
 目標が多過ぎて、とても実現など出来ないのでは?と心配になるが、地球にとっては良いことだろうから17の目標を参考までにご紹介しておこう。

1: あらゆる場所のあらゆる形態の貧困を終わらせる
2: 飢餓を終わらせ、食料安全保障及び栄養改善を実現し、持続可能な農業を促進する
3: あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する
4: すべての人々への包摂的かつ公正な質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する
5: ジェンダー平等を達成し、すべての女性及び女児の能力強化を行う
6: すべての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する
7: すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネルギーへのアクセスを確保する
8: 包摂的かつ持続可能な経済成長及びすべての人々の完全かつ生産的な雇用と働きがいのある
  人間らしい雇用を促進する
9: レジリエントなインフラ構築、包摂的かつ持続可能な産業化の促進及びイノベーションの推進を図る
10: 各国内及び各国間の不平等を是正する
11: 包摂的で安全かつレジリエントで持続可能な都市及び人間居住を実現する
12: 持続可能な生産消費形態を確保する
13: 気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる
14: 持続可能な開発のために海洋・海洋資源を保全し、持続可能な形で利用する
15: 陸域生態系の保護、回復、持続可能な利用の推進、持続可能な森林の経営、砂漠化への対処、
  ならびに土地の劣化の阻止・回復及び生物多様性の損失を阻止する
16: 持続可能な開発のための平和で包摂的な社会を促進し、すべての人々に司法へのアクセスを提供し、
  あらゆるレベルにおいて効果的で説明責任のある包摂的な制度を構築する
17: 持続可能な開発のための実施手段を強化し、グローバル・パートナーシップを活性化する

 地球上のあらゆる人や国が平等かつ公平な状態に置かれ、持続可能な環境を保持するという、なんとも壮大な目標だ。
 目標は素晴らしいし、それが実現すれば良いとは思うが、このSDGsを達成するには、世界中の人や企業がよほど節制し、抑制的に行動しなければならないだろう。果たして、勝者が総取りして、弱者との格差を広げるグローバル資本主義にブレーキが掛けられるのだろうか? 米国からも株主資本主義ではなく、従業員、顧客、環境などへも配慮したステークホルダー資本主義に転換すべきとの議論が起こっているが、これがどこまで本気なのか。環境のために企業の収益が下がっても良いと本当に株主が言うのかどうか、大いに疑問ではある。
 だが、持続可能な地球であるためには、そうせざるを得ない。敵をなぎ倒し、自社だけが生き残れば良いとする獰猛かつ強欲な経営を許していては、SDGsなど達成できるはずがない。
 そこで、孫子の兵法である。2500年前のことだけに、地球環境を考えているわけではないが、自国の存続、すなわち持続可能性を最優先した教えが孫子の兵法である。自国の持続可能性を高めるためには敵国も保全し持続させよと説いた。

『孫子曰く、凡そ用兵の法は、国を全うするを上と為し、国を破るは之に次ぐ。』

 孫子は言った。基本的に、戦争においては、敵国を保全した状態で傷つけずに攻略するのが上策であり、敵国を撃ち破って勝つのは次善の策であると。
 さらに、

『軍を全うするを上と為し、軍を破るは之に次ぐ。旅を全うするを上と為し、旅を破るは之に次ぐ。卒を全うするを上と為し、卒を破るは之に次ぐ。伍を全うするを上と為し、伍を破るは之に次ぐ。』

 敵の軍団を無傷のままで降伏させるのが上策であり、敵軍を撃破するのは次善の策である。敵の旅団を無傷のまま手に入れるのが上策であり、旅団を壊滅させてしまうのは次善の策である。敵の大隊を無傷で降伏させるのが上策であり、大隊を打ち負かすのは次善の策である。敵の小隊を保全して降伏させるのが上策であり、小隊を打ち負かすのは次善の策であると言った。
 だから、

『百戦百勝は、善の善なる者に非るなり。戦わずして人の兵を屈するは、善の善なる者なり。』

 百回戦って、百回勝利を収めたとしても、それは最善の策とは言えない。実際に戦わずに、敵を屈服させるのが最善の策であると、戦わずして勝つという教えを残した。戦争だけを考えれば、敵を力任せに玉砕し、皆殺しにすることが出来れば良いのだが、その後のことを考えたら、敵をなるべく保全しておいた方が良い。なぜなら戦いは一度きりではなくその後も続くものだから。
 孫子はこうも言っている。

『上兵は謀を伐つ。其の次は交を伐つ。其の次は兵を伐つ。其の下は城を攻む。城を攻むるの法は已むを得ざるが為なり。』

 最上の戦い方は、敵の謀略、策謀を読んで無力化することであり、その次は、敵の同盟や友好関係を断ち切って孤立させることである。それができなければ、いよいよ敵と戦火を交えることになるが、その際に一番まずいのが敵の城を攻めることである。城攻めは、他に方策がない場合に仕方なく行う手段に過ぎない、と。
 なるべく戦わない。なるべく資源を無駄にしない。これが孫子の教えだ。不戦の兵法である。

『故に、善く兵を用うる者は、人の兵を屈するも、而も戦うに非るなり。人の城を抜くも、而も攻むるに非るなり。人の国を毀るも、而も久しきに非るなり。必ず全きを以て天下に争う。故に、兵頓れずして、利全うす可し。此れ謀攻の法なり。』

 だから、戦上手の戦い方は、敵軍を降伏させても、それは戦闘によってではなく、城を陥落させたとしても、城攻めによってではなく、敵国を滅ぼしたとしても、長期戦によってではない。必ず敵味方すべてを保全する形で天下に覇を競うことを考える。したがって軍の疲弊も少なく、戦利を完全なものにできるのだ。これが謀によって敵を攻略するやり方であると結論づけた。
 SDGsはまさに、謀攻の戦いである。国と国が戦闘によってではなく相手国を動かし、全世界を保全していく不戦の戦いなのだ。敵憎し、敵だからと殺し合うのではなく、敵をも貴重な資源と考えて、味方に取り込む方法を考える。勝者一人が全てを収奪するのではなく、勝者も敗者も良しとなるWIN-WINか、そもそも戦わず、勝者も敗者もなく全体を保全する。必ず全きを以て天下に争う。これが孫子の教えだ。
 目先の業績や株価、単年度の利益や報酬を考えれば、弱者を叩き潰して競合を壊滅させ、地球環境など考えずに資源を使いまくった方が良い。だが、人類の戦いは単年度で終わるわけではない。永遠に戦いは続いて行く。そこに戦国乱世が長く続くことを前提とした孫子が役立つ。
 ちなみに、敵をすべてなぎ倒し、中華統一を果たした秦は、短命で終わった。

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