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W杯ロシア大会日本代表

2018-08-06

 FIFAワールドカップ2018ロシア大会が終わって1ヶ月が過ぎたが、遅ればせながら孫子兵法家として、日本代表の戦いっぷりについて触れておかないわけにはいかない。この間、西日本豪雨(平成30年7月豪雨)があったり、あまりに暑い日が続いて夏バテ気味だったりして、テンションが下がっていたのだが、8月に入ったことだし、気合を入れ直して行きたいと思う。
 さて、W杯ロシア大会の日本代表だが、なんと言っても直前の監督交代で、西野監督が急ごしらえの西野ジャパンをどう戦わせるのか、代表選考も含め興味深かった。「ビッグ3」と呼ばれる本田圭佑、香川真司、岡崎慎司を招集したことで「おっさんジャパン」という批判も受けたが、やはり大舞台での安定感、途中交代でも存在感を示せたのは良かったのではないか。
 そして、孫子兵法的に押さえておきたいのが、そのハリルホジッチの下では代表から外されそうになっていたベテランたちが「やるしかない」「西野監督の期待に応えるしかない」「この批判を覆してみせる」と覚悟を決めたであろうという点だ。結果として、グループリーグで最もFIFAランキングが低く、直前のゴタゴタもあって3戦全敗だろうという予想を覆し、1勝1敗1分で決勝トーナメント進出を勝ち取った。
 細かいゲーム内容は、1ヶ月も前のことなので置いておくとして、孫子兵法的にもう一点、3戦目のポーランド戦で0-1で負けていながらボールを回して時間を稼ぎをしたことの意味を考えたい。ここでの本当の負けは、予選リーグで敗退することだ。要するに、西野ジャパンは「(無理に)戦わずして勝った(決勝トーナメントに進んだ)」。敵はすべて格上であり、孫子の兵法を単純に当てはめれば、戦ってはならない。それではW杯に出るなということになるので、出場した以上は戦うしかないわけだが、無用な戦いをする必要はないし、予選リーグでは全勝を目指す必要もない。
 どうしても日本では「正々堂々と戦うべきだ」「負けてもいいから潔く」といった意見が優勢になるが、高校生の部活動ではあるまいし、「全力を尽くしたのだからそれでいい」なんて無責任なことは言っていられない。恰好悪くても、潔くなくても、目先では負けていても、決勝トーナメントに進むという勝利を得るにはどうするかをシビアに考えるべきである。西野監督は批判されることも覚悟の上で、時間稼ぎを指示したはずだ。
 案の定、批判された。だが、この批判も決勝トーナメントのベルギー戦で「やるしかない」と開き直るパワーとして利用できたのではないかと考える。「時間稼ぎまでして決勝トーナメントに残ったのだから、日本代表はそれに見合った力を持っていたと世界に示さなければならない」「卑怯なままで終わればただの卑怯者だが、そこで結果を残せばそれも一つの戦い方だったとなるだろう」という意識をチームにもたらしたということだ。
 孫子は、

『凡そ客たるの道は、深く入れば則ち専らにして、主人克たず。饒野に掠むれば、三軍も食に足る。謹み養いて労すること勿く、気を併わせ力を積み、兵を運らして計謀し、測る可からざるを為し、之を往く所無きに投ずれば、死すとも且つ北げず。死焉んぞ得ざらんや、士人力を尽くす。兵士は甚だしく陥れば則ち懼れず、往く所無ければ則ち固く、深く入れば則ち拘し、已むを得ざれば則ち闘う。』

 と説いた。背水の陣の元となった教えである。「敵国に侵攻する場合、敵地に深く入り込むほど自軍は結束して強化され、防衛する側は対抗できなくなる。肥沃な土地を掠奪すれば、全軍の食糧確保も充分となる。そこで兵士たちに配慮して休養を与え無駄な労力を使わせないようにし、士気を高めて戦力を蓄え、軍を移動させながら策謀を巡らせ、敵にも味方にもこちらの意図をつかめないようにしておいて、どこにも行き場のない状況に兵を投入すれば、死んでも敗走することはない。これでどうして死にもの狂いの覚悟が得られないことがあるだろうか。士卒はともに決死の覚悟で力を尽くすことになる。兵士たちは、あまりにも危険な状況に陥ると、もはや恐れなくなり、行き場がなくなれば覚悟も固まり、深く入り込めば手を取り合い一致団結し、戦うしかないとなれば、奮戦するものなのだ。」という意味だ。
 あれこれ考えていても仕方ない、ここまで来たら戦って勝つしかないという状況に兵士を追い込む。それが将軍(監督)の役割である。ここまで意識してポーランド戦での時間稼ぎを指示していたとしたら、西野監督はなかなかの孫子の使い手である。
 結果はご存知のように、あのベルギーを2点リードするところまで追い詰めながら、悔しい逆転負け。最後は地力の違いを見せつけられた感があったが、途中までは互角どころか、リードしていたくらいだから良く戦ったと言えるだろう。
 次の代表監督に決まった森保監督にも、孫子の兵法をしっかり研究しておいてもらいたい。格下の日本が格上の敵に勝つには、背水の陣で「やるしかない」状況に選手を追い込むしかないのだ。

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