孫子の兵法

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孫子×DX 負けない備えもDX

2024-04-30

 戦略を練り、勝てるかどうかを見極める謀攻篇が終わり、ここから軍形篇に入る。軍形篇ではまさに軍形を整え、戦う前の準備や心構えがどうあるべきかを説いている。
 孫子は、勝とう勝とうと逸るのではなく、まずは負けない準備、体制作りを優先するようにと教えてくれている。
 勝てるかどうかは、いざ戦う時に敵がどう出て来るか、どれくらいの戦力かという敵次第の面があって、事前に準備するといっても限界がある。では、戦う前までボケーッと待っていればいいのかと言うと、もちろんそうではない。どんな敵が攻めて来ても良いように負けない準備を進めておく。負けない準備は自軍の弱いところを補強するようなことだから、敵がいなくてもやるべきことをやっておけばいいのだ。

<軍 形 篇>
 『昔の善く戦う者は、先ず勝つ可からざるを為して、以て敵の勝つ可きを待つ。勝つ可からざるは己に在り、勝つ可きは敵に在り。』
◆現代語訳
 「昔から、戦いに巧みな者は、まず敵が自軍を攻撃しても勝てないようにしておいてから、敵が弱点を露呈し、自軍が攻撃すれば勝てるようになるのを待ち受けたものである。負けないようにすることは自分自身によってできることだが、自軍が敵に勝つかどうかは敵軍によって決まることである。」
◆孫子DX解釈
⇒まずデジタル化によって業務の効率化、コストダウンを実現して負けない企業体質を作る。その後に戦略実行に移るタイミングを計れ。効率化は自社内でやればできるが、勝てるかどうかは敵との相対的な差による。

 DXにおける負けない備えとは何か。社内の業務効率を上げ、コストを下げ、収益性を高めることである。まとめて言えば生産性を上げるということになるが、それによっていざ攻める時のために軍資金を蓄えておくのも重要なことだ。
 ここで気を付けて欲しいのが、この業務効率アップ、コストダウンをDXの中心に据えてしまうことである。デジタル活用すれば、自ずと効率も上がるし、ペーパーレスにもなり、手間も減るわけだから人員(人件費)も絞れるだろう。業務効率アップやコストダウンはある意味、デジタル化の成果が一番出やすい領域だと言える。コストダウン効果は試算もしやすいので、デジタル投資を意思決定する際に投資効果を示すことも容易だ。
 だから、多くの企業がDXに取り組もうとする際に、この業務効率を上げコストを下げるところから入ろうとするのだが、この領域で成果が出たからと言って、そこでDXがうまく行ったような気になってしまうのが問題なのだ。
 戦争で守っているだけでは勝ったことにはならないのと同様、企業経営においても自社の効率を上げ、コストダウンをしただけでは勝ったことにはならない。軍形篇で守りを先に進めるように孫子が言うのも、あくまでもここまでの戦略検討や勝つためにどうするかという思考過程を経た後に、いざ戦う時の前に守りを固めておけよということなのだ。
 特に、中小企業がコストダウンをDXの目的にしてしまうと、仮にそのコストがゼロになったとしても絶対額が小さいので大した成果にはならず、結局相対的に大きな企業との競争には勝てない。だから営業DXを起点にして進めていくべきなのだが、戦いが始まり、成果が出るまでにはタイムラグもある。そこで攻めの前に守りを固めるという目的で、社内の業務効率アップやコストダウンを実現させておくということであって、進め方の順番を忘れないようにしていただきたい。
 守りを固めたからと言っても、競争優位にはならないが、結果はすぐに出る。まずペーパーレスにして、従量的にコストがかかっているところをデジタルに置き換えることを考えると良い。一番分かりやすいのが、請求書など郵送業務のデジタル化、WEB配信化だ。
 たとえば、請求書を郵送しようと思えば、請求書を三つ折りにして封入し、宛名を書くか宛名印字をして、ポストに投函という作業が発生する。もちろん、切手も必要、封筒もタダではない。請求書の出力にも紙が必要でありプリント費用もかかる。2024年の10月には郵便料金が上がり、少なく見積もっても請求書一通あたり135円程度はかかるはずだ。これには人の手間賃は含まれていない。これをWEB配信に置き換えれば、数にも寄るが50円以下、30円程度に抑えることができる。一通あたり100円のコストダウン効果があるとすると、300件の請求書送付で3万円、500件あれば5万円のコストダウンが実現する。
 コストが月額5万円下がったところで戦いに勝てるわけではないが、業務効率も上がって、コストも下がるのであれば、経営体質の強化にはつながるだろう。これを主目的にしてはならないが、こうした負けない備えとしてのDXを進めつつ、来るべき開戦の時に思い切って戦えるように軍資金を貯め込んでおくと良い。

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